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交渉においてバイアスを消すことは可能か?

投稿日:2017/08/12更新日:2019/04/09

『グロービスMBAで教えている 交渉術の基本』から「心理的バイアスに対応する」を紹介します。

交渉に限らず、人は大なり小なりバイアス(思考の歪み)に引っ張られて適切な意思決定ができないことがあります。サンクコスト(すでに発生してしまっており、将来の意思決定には本来関係しない費用)に惑わされて好ましくない意思決定をする、単純接触効果(頻度高く接触する人間に好意を抱くこと)によって、本来すべき値下げ交渉が甘くなる、などはよくあることです。現実的には、バイアスから完全に自由になることはできないと最初から思っておく方がいいでしょう。しかし、その影響を緩和することはできます。たとえば、自分以外の人間の意見を聞くといった工夫の積み重ねにより、バイアスそのものは消えなくても、それによるダメージは減らすことができるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

心理的バイアスに対応する

ここまで「勝とうとするバイアス」など交渉につきもののバイアスを紹介してきましたが、それでは実際の交渉現場では、これらにどのような対応をしていけばよいでしょうか。

そもそも、バイアスから完全に逃れることは不可能に近いことです。それだけ人間の心理の動きは、合理的判断に根強く影響を与えます。とすれば、対応の方向性としては、まずは自分がバイアスにとらわれる可能性があることを自覚すること、そしてその「バイアスのかかった状態」から少しでも認識を切り替える仕掛けを作ることの2点が重要と言えるでしょう。前者は、ここまで紹介したバイアスが合理的意思決定に影響を及ぼすメカニズムを知っておくことです。後者については、以下に説明していきます。

自らが深みにはまらないようにするための仕掛けを作っておく

第一に、たとえば「勝とうとするバイアス」などに引きずられないために、「潮時」を知り、「負けてよい」と合理的に判断するための仕掛けを見ていきましょう。すなわち留保価値を適切に設定し、そこに達したら交渉から離脱すると決めておくということです。

たとえば、株や為替の売買において、トレーダーは強制的な「損切りライン」を設定し、手持ちの商品が値下がりしてその価格に達したら強制的に決済されるような取引手法を用いることがあります。アンカリングや損失回避などのために、どうしても「損切り」は難しく意思決定を先延ばししがちになりますので、それを回避するために、具体的な価格を予め定め、迷うことなく強制的な取引執行を行う仕組みを作るのです。

交渉においても、こういう状態になればもはや交渉自体を先に進めない、その状態になったらそれまでの誤った意思決定に未練をもつことなく、撤退するという点を決めておくことは有用でしょう。実はこれが、第1章で解説した留保価値に当たります。

第二に、第三者的なチェックのシステムを作るのも大きな効果があります。

自分の意思決定について、経験のある第三者や専門家の助言を受けることはよくあることです。宝石の購入についての鑑定士の評価、中古車についての整備士の評価、住居に対する建築士の検査などです。これらと同様に、交渉においても「勝とうとして」不合理な意思決定をしようとしないか、不合理なアンカーや枠付けに影響されていないか、信頼して相談できる第三者を持っておくのです。

第三に、予め「見直しの手順」を決めておくという手もあります。

たとえば、ある企業が買収防衛策を設けるときに、一定期間のうちに株主総会などでその防衛策の存続を見直すという「サンセット条項」も併せて盛り込むことがあります。これがなくて、現経営陣が防衛されている状況があまり長く続いてしまうと、現経営陣には敢えて元に戻そうというインセンティブが働かないので、かえって株主に不利な状況が温存されてしまう恐れがあるからです。

また、組織として「勇気ある過去の否定」を奨励・賞賛したり、事業の新陳代謝を活発にする仕組みを戦略的に作ることもあります。たとえば、「過去X年間に発売した新商品で総売上のY%以上を占める」といった経営目標を重視するとします。これは一義的には新規開発の奨励ですが、その結果として「古くて相対的に価値の低くなったものの廃棄」を促す仕掛けにもなっています。

バイアスとうまく付き合う

ここまでは、「いかに自己の認識をバイアスの悪影響から守るか」という視点で書きましたが、バイアスは常にマイナスをもたらすとは限りません。自分においても他者においてもバイアスの存在は認めたうえで、なるべくプラスになるように上手く付き合っていくという発想もあります。

たとえば、「先手を取る」ことの重要性は留意しておくべきでしょう。何らかの論点が浮上してきたときに、周囲の関係当事者に先駆けて自分が動き意思を表明すると、この先手の動きが、周囲の人々へのアンカーとなり、枠付けを形成します。そして、仮にこの動きがいったん周囲に受け入れられれば、立場固定の働きにより他者からの巻き返しは難しくなり、そのまま自分に有利な形で決着となる可能性が高まるというわけです。

もちろん、相手にとってその論点が切実な利害関係のあるものならば、たとえ最初にアンカーを打ち込んでも、相手もそれにとらわれまいと懸命に応酬してくるでしょうし、また、あまり露骨に自分本位な動きを最初に見せると、かえって相手の「勝とうとするバイアス」を刺激してしまい過剰な競争に陥ることもあります。

つまり、「先手を取る」ことは万能の必勝法というわけではありませんが、当事者間でさほど切実な利害対立を生まないような論点で、我田引水がそれほど目立たない程度であれば、大きな効果をもたらすことでしょう。

また、既に述べたことの再確認にもなりますが、目標値を高く持つことが挙げられます。高い目標値を最初に掲げることで、自分の「立場固定」「印象管理」のバイアスを上手く交渉へのモチベーションとして転化することもできるのです。

(本項担当執筆者:書籍・GLOBIS知見録編集部 研究員 大島一樹)
 

 

『グロービスMBAで教えている 交渉術の基本』
グロービス経営大学院  (著)
1600円(税込1728円)

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