『ロジカル・シンキング』――聞き手を100%納得させる必要はない 

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まだ十分経験を積んでいない若手社員が、企画書や報告書の作成が大変だと悩んでいることがよくある。様子を聞いてみると、「頭ではわかっているんですけど、資料にしようとすると書けなくなるんです」などという。気持ちは分からないではないが、厳しく言えば「言い訳」である。

とはいえ責めてばかりでは始まらない。こんな場合にはどうしたらよいのか。私からのアドバイスは、まずはいったん「ロジカルに説明しよう」と構えずに、考えていることをひとまず、紙に書き出してみよう、というものだ。やってみると意外なほどに頭が整理されていくことが多い。

なぜかと言うと、上記のような場合、本人の頭の中で色々な考えを思いついてはいるのだが、整理がついていないので、どこから始めていいかわからないという状態に陥っていることが多いからだ。とにかく書き出してみることで、自分が何を考えているのかを客観的に理解できるようになる。そうして初めて、自分のロジックの弱さが見えてくる。ここがキモで、どこでロジックが弱いか分かれば、ではこうして補強しようとか、この理由付けはやめようというように、「次の手」が見えてくる。つまり、「書けなくなる」状態を脱出することができるというわけだ。

この話から分かることは、(特に若手のうちは)「100%ロジカルに正しい考えが頭の中でまとまらないうちは、表に出してはいけないのではないか」という(勝手な)思い込みは良くないということである。そこでオススメなのがこの本だ。

この本は、一言で言うと、『「易しい」ではなく「優しい」ロジカル・シンキング』とでも呼びたい本だ。何より、筆者の思いやりに溢れている点が、巷の類似の本と違う。

例えば、全ての「章」の始まりには、実際にビジネスの場面で起きそうな場面設定が展開されていて、また終わりには、「第○章のまとめ」が必ずつけられている。しかも、いたるところで、多くの方が躓きそうなポイントを取り上げ、平易な言葉で、かつ論理的に説明していく。また、数字を読み解く上での重要なアプローチまで解説してくれている。要は、「読み手に優しい」のである。

ただ、それらは表面上の優しさにすぎない。本当の優しさは、「ロジカルの100%は存在しない」と言いきってくれる点だ。だから、「相手の100%の納得感をひきだす」ことに頑張る必要はなく、「自分のロジックの弱いところ」をきちんと把握することが必要なのだと言う。100%完璧なロジックがないということは、逆に聞き手を100%納得させることもできないということでもある。ではどうすればいいか?

筆者は「あなたが考えていることを説明して、(聞き手の)理解を得るための時間は極力短く出来るように準備すること」が必要であると言う。そうすれば「あら探しのための時間を周りの人に使わせること」がなくなり、「関係者に、早く、正確に自分の考えていることを理解してもらえるようになり、その上で、よりよい意見を乗せてもらえることによって、よりよい成果につなげていける」からだ。要は、「あなたの聞き手に優しい」本なのである。

つまり、ロジカル・シンキングとは「相手を攻撃するものでもなく、自己防御のために使うものでもない」と言い切り、「相互の適切な理解を促し、建設的な意見を進める」ためのものであるという筆者の考え方が実に「優しい」のだ。

だからこそ、読み手であるあなたに「一手間(ひとてま)を惜しまずに」という言葉が、スット心に入ってくる、そんな不思議なビジネス本である。
 

『ロジカル・シンキング お互いに理解し、成果につなげる!』
グロービス(著)、岡 重文(執筆)
PHPビジネス新書
870円(税込940円) 

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