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競争優位が持続しない時代の戦い方とは?

投稿日:2017/07/01更新日:2019/04/09

『新版グロービスMBA経営戦略』から「一時的な競争優位」を紹介します。

古くから戦略論において最重要な課題は、いかにして持続的な競争優位性を構築するかというものでした。たとえば日本ではセブン-イレブン・ジャパンが長きにわたってコンビニ業界で競争優位性を構築しています。その裏付けとなっているのは、店舗数に裏付けられたバイイングパワーや認知度、POSを有効活用した売れ筋商品のラインアップ、販売機会ロスを最小化する配送システム、有力ベンダーとの協力体制によるPB商品(特に食品)の開発力などでした。

しかし、環境変化のスピードが上がったことに伴い、こうした優位性が持続するケースはむしろ例外となりつつあることが分かってきました。たとえばアメリカでは、技術力や強力なチャネル網を武器に100年以上にわたって成功を収めてきたコダックが、デジタル化の波にうまく乗れず、破産しました。さまざまな業界において、競争優位性の賞味期限は短くなることが予想されています。そうした時代をどう乗り切り企業を存続させ続けるかが、現代企業にとって新しい課題として突き付けられているのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

一時的な競争優位

ポジショニング論、リソース・ベースト・ビュー、そして3つの価値基準など、競争優位のタイプ分けやその源泉に関しては多様な視点がある。だが一方で、伝統的な戦略論はある前提条件を常に共有してきた。それは経営戦略の目的の1つが、持続可能な競争優位の構築にあり、かつそれは十分に達成可能だという見方である。

こうした伝統的な見方に対し、現実の企業の競争環境では優位性の持続期間は極めて短いとする指摘が、1990年代から経営学者の間で出始めた。代表的な論客の1人がダートマス大のリチャード・ダベニーである。ダベニーは、企業の戦略的行動は競合他社の反撃によって模倣もしくは打破されてしまうため、優位性を維持できる期間は極めて短いとした。このような市場の様相は、ハイパー・コンペティション(過当競争)と呼ばれ、ハイパー・コンペティションの下では、企業は1つの優位性の確立だけで立ち止まらすに、次々と新しい優位性を獲得しながら、同時に競合他社が保有する優位性を侵食し続ける行動が求められる。

さらに近年、競争優位の議論に大きな影響を与えているのが、コロンビア大のリタ・マグレイスの一時的競争優位というコンセプトだろう。マグレイスの主張を要約すると、次のとおりである。

事業環境は刻々と変化するものであり、長期間持続する競争優位は一部の例外的な業界(航空機メーカー、鉱山運営、生活必需品販売など)でのみ存在し、多くの業界には当てはまらないにもかかわらず、経営者の多くは、業界は戦略分析にとって最も重要な枠組みであり、変化の少ない安定した競争要因から成ると想定している。そして、競争優位は持続可能であり、企業はいったん確立した優位性を中心に据えて、従業員や資産、組織を最適化すればよいという考えを変えずにきた。

そのため企業の戦略やシステムは、既存の競争優位から最大の価値を引き出すように設計され、企業全体が既存のビジネスモデルに沿おうとする惰性を強めてしまった。成功は一定期間は続くものの、いざ市場に新しい波が訪れても、安定した環境を前提とした慣行やシステムが足枷となって、手遅れになるまで問題に対処できない。持続する競争優位を前提にした事業慣行から抜け出せなかったことが、ノキアやイーストマン・コダックといった、かつて名声を馳せた著名企業の凋落の原因と考えられる。

競争優位が持続しない状態が現実であるとすれば、企業に残された選択肢は、多くの一時的競争優位を同時並行的に確立し、活用していくアプローチである。このような優位性の1つ1つは短期間しか持続しないが、全体をポートフォリオとして組み合わせることで、企業は長期間にわたってリーダー企業であり続けられる。

そしてマグレイスは、競争優位が開発され、寿命を迎えるまでの流れを、5つの段階から成るライフサイクルで示した。

開始:新しい事業機会に向けてリソースを確保する
成長:本格参入や事業拡大に向けて、システムとプロセスをスピーディに構築する
活用:競合他社との差別化要因を確立し、市場シェアや利益を拡大させる
再構成:新たな優位性の確立のために、リソースを再配分する
撤退:重要ではなくなったリソースを売却・閉鎖・転用などによって処分する

企業は上記のライフサイクルの中で、「活用」中の事業に重心を置きがちであるが、一時的優位性の波にうまく乗り続けるには、活用フェーズでの資産や人員の過度な増強は避け、競争上の独自性を獲得している少数の重要領域に的を絞るべきである。既存の優位性への過度な依存は、新たな優位性への移行を阻むおそれがあるためである。

また、従来の優位性が持続するという考え方の下では、再構成や撤退の取り組みは否定的に捉えられやすいが、一時的優位性の考え方に基づけば、まだ事業を続けられるうちに再構成・撤退する取り組みを前向きに捉えられる。

ケースのリクルートも、かつて一世を風靡した『とらばーゆ』『FromA』などはすでに紙の雑誌としては存在せず、転職情報であればネット経由の『リクナビNEXT』、求人情報であれば無料情報誌の『TOWN WORK』などに姿を変えつつ、依然として同種サービスの中では競争力を発揮している。

一時的優位のポートフォリオを構築するうえで有効なのが、自社が競争する場所を業界ではなく、アリーナ(競技場)という概念で捉える手法である。

ポーターの「5つの力」モデルに代表されるように伝統的な戦略分析は、業界内の同業他社、すなわち自社と似通った製品を提供する企業との比較を前提としてきた。しかし、グーグルが携帯電話向けのOS(Android)を開発して既存の携帯電話業界を驚かせたように、業界の垣根はあいまいなものであり、従来はライバルと見なしていなかった企業に不意打ちを食らわされる危険度が増している。多くの市場で業界が他の業界と競争し、同じ業界内でもビジネスモデル間の競争が繰り広げられているのが実態である。

そこで一時的優位性を前提とした戦略分析では、1つの顧客セグメントと1種類の製品・サービス、そしてそれを提供する場とがセットになって、1つのアリーナができていると見なす。アリーナを特徴づけるのは、特定の顧客が求める“Jobs to be done”であり、そのジョブを解決するさまざまな手段と自社は競争することになる。従来の業界の概念に比べると、アリーナはより細かいくくりであり、企業は同時並行的に複数のアリーナで競争をすることになる。ただし、参加するすべてのアリーナで通用する唯一のアプローチがあるわけではなく、企業は個々のアリーナの競争状況に応じてアプローチを柔軟に変えていかなければならない。

(本項担当執筆者:グロービス経営大学院教員 山口英彦)

 

『新版グロービスMBA経営戦略』
グロービス経営大学院  (著)
2800円(税込3024円)

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