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交渉や説得で「規範」を意識していますか?

投稿日:2017/03/11更新日:2019/04/09

『グロービスMBAクリティカル・シンキング コミュニケーション編』から「説得に利用できる規範の種類と特徴」を紹介します。

「…すべき」という規範を説得の材料とすることは、人を動かす上で大きな武器になります。一方で、どの規範を使うべきかは慎重に考えなければなりません。たとえば、取引相手に回答を急がせたいケースで、「回答期限までに返答しなければ契約違反だから、法的手段に訴えることも辞さない」などと法律や契約に基づく規範で説得すれば、ほとんどの相手は急いで回答するでしょう。しかし、このやり方は、相手に「強制された」「他人行儀に扱われた」という感覚を持たせる可能性が大です。ビジネスは、その瞬間だけ相手を思い通りに動かせればよいというものではありません。長期にわたる信頼関係を構築し、互いに気持ちよく働く上でも、どの規範を使えば相手が自然に動いてくれるかを、コミュニケーションを通じて探り、理解しておくことが必要です。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

説得に利用できる規範の種類と特徴

交渉に利用できる規範は、個人個人でまったく異なるわけではなく、特定の人々の間に共通する規範が存在する。以下、共通する範囲に応じて、3段階に分けて見ていこう。

広い範囲で規範となっているもの

法律や一般常識、道徳観などは、同じ国民であればほば共通して持っている規範となる。法律に背くような行為をすれば罰せられるし(罰するのは国や州)、常識や道徳観からかけ離れた行為をすれば「あの人は常識のない人だ」と思われて、長い目で見れば人間関係に支障をきたすおそれがある(罰するのは世間)。国によっては、宗教が重要な規範となっていることもある(罰するのは神、もしくはそれに相当する存在。イスラム諸国などではこの規範が強い)。程度の差こそあれ、多くの人はこうした規範に則って行動している。

マネジャーの立場から言えば、「法律ではこのように行動しなければならない」「常識的に考えればこのような行動はとらない」などと、相手の行動や判断を、こうした規範をもとに制限することができるわけだ。特に、昨今のコンプライアンス(法令遵守)重視の世の中では、法律は非常に威力のある規範となりうる。

交渉等において弱い立場に置かれた場合(例:下請けや契約社員など)には、法律を知っておくことが大きな意味を持つことがある。相手の一方的なペースに引き込まれないようにするためにも、最低限、関係する法律や判例(派遣社員であれば労働者派遣法や労働基準法)は理解しておきたいものである。

一部の集団で規範となっているもの

法律のような広い範囲の規範ではないが、特定の集団で規範となっているものがある。たとえば、ある組織の文化や、特定の年代での共通の価値観がそうだ。人は自分が属する集団の文化、習慣に反しない行動をとろうとするし、ある年代の特徴に沿った行動や思考をしようとする。こうした規範を押さえておくと、説得の際にどのような行動パターンをとるのかを予測できる。

たとえば、ある企業と交渉していて、突然担当者が変わった場合、担当者個人の価値観は異なっても、その企業の文化に即した行動パターンには共通するものがあるはすだ。あらかじめ交渉相手の組織が有する文化を把握しておけば、話し合いの場でまったく異なる価値観に戸惑うようなことは少なくなるだろう。

そうした文化を、説得の論理展開に組み込むことも可能だ。たとえば、商品の売り込みに際して交渉相手が極端に慎重な時、「あなたの会社は何事にもチャレンジしていく、ベンチャー・スピリットにあふれた会社だとうかがっています」と話すことで、相手に「新しいものを試してみることは、自社において望ましいこと」と納得させ、行動に移させることが可能となる。

個人的に規範となっているもの

個人の強烈な原体験などがベースとなって、当人の中に強い規範が生まれる場合もある。たとえば、「子供の頃に貧しい思いをした」とか、「親からずっとそう言われて育ってきた」などである。説得すべき相手が1人であれば、この規範を他の規範と絡めて用いると有効になることが多い。

たとえば、若い時は苦学生だった資産家に寄付を募るのであれば、「若い頃のあなたのような、可能性を持つ恵まれない若者にチャンスを与えることが、成功者の義務なのではないでしょうか」といったアプローチが有効だろう。

自分が説得のレバーで使おうとしている規範がどの程度の対象層に共通するものかを把握しておくことは、このアプローチの効果を高めるうえで非常に重要である。ある特定の価値観を持った人でなければ効力を発揮しない規範をレバーとして使っても、相手に響かず、腹に落ちた説得につながらないからだ。

たとえば、グローバルなビジネスシーンで交渉がうまくいかないのは、常識や価値観の捉え方がまったく異なるため、自分では当然と思っている規範が通用しないことに原因があることが多い。「ガチガチに実力主義で行くのではなく、年長者を優先すべき」という価値観は、儒教の影響の強いアジア諸国では有効かもしれないが、アメリカなどではあまり効果はない。アメリカ人が相手ならば、「フェアであること」「機会は平等でなくてはならないこと」「挑戦は奨励されるべきものであること」などを規範として説得を組み立てると、有効な場合が多い。

なお、こうした国民性に応じた説得の仕方は有効な半面、四角四面に用いると、「ステレオタイプな見方をして……」と、かえって反感を買うことにもなる。その辺のバランスは非常に難しく、絶対的に通用する規範があるわけではない。だからこそ、誠実にコミュニケーションをとりながら、相手の琴線に触れる規範を探す努力を続けることが大切なのである。

誠実であることを嫌う人間はまずいないので、コミュニケーション、特に説得のコミュニケーションを行うベースとして、誠実な態度で向き合うことが大原則だと心得てほしい。

(本項担当執筆者:グロービス出版局長 嶋田毅)

 

『グロービスMBAクリティカル・シンキング コミュニケーション編』
グロービス経営大学院  (著)
2800円(税込3024円)

 

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