現地時間11月8日のアメリカ大統領選挙は、事前の世論調査を覆し、ドナルド・トランプ氏の勝利に終わりました。今回は、なぜ事前の世論調査が外れたのか、その理由を検討してみます。
事前調査ではヒラリー・クリントン氏が優勢
11月7日の段階では、ヒラリー・クリントン候補の方が3ポイントほどトランプ候補を引き離していました。これは、リアル・クリア・ポリティクスというサイトが出した数字で、いくつかの世論調査の平均をとったものです。特定のメディアの世論調査だけでは統計的に偏る可能性がありますが、このサイトはそうしたバラつきをなるべく減らすよう工夫されており、信頼性は高いと言われていました。NHKなどのニュースでもこのサイトの数字が用いられています。しかも、今回の大統領選挙では、ほぼ4割の有権者が期日前投票したとされており、その意味で出口調査的要素もかなり含まれています。
加えて、7日のフォーブスの記事では、プリンストン選挙コンソーシアムの統計モデルを構築しているサム・ワン博士のこのような言葉を紹介していました。「ブレクジットのメディア報道を見ると、失態を犯したのは識者らだったことが分かる。…私は当時、両者の差は小さすぎるため結果は予測できず、どちらに転ぶ可能性もあると言っていた。…大統領選の世論調査は、世界最高水準だ。米国の世論調査機関は常に新しい手法を試している。業界全体での誤差はせいぜい1~2ポイントだろう」
結果は、統計学的に言えば、このワン博士の言葉をも裏切る「異常値」となったのです。その理由として、ここでは2つの可能性を挙げましょう。
事前調査が外れた理由①アンダードッグ効果
1つは「アンダードッグ効果」です。これは、事前報道などで不利と伝えられた候補に、「何とか勝たせたい」と票が入る現象です。どちらに投票しようか悩んでいた人間、あるいは投票に行くかどうか決めかねていた人間が、事前の世論調査に影響を受けた可能性は否定できません。
事前調査が外れた理由②見栄張りバイアス
それ以上に可能性が高そうなのが「見栄張りバイアス」です。これは、アンケートなどで見栄を張って本当の意向を伝えないというものです。
今回のケースでいえば、実際には期日前投票でトランプに投票したにもかかわらず、「クリントンに投票したよ」と答えたということです。中間層の白人男性などに少なからずこうした人がいた可能性はありそうです。また、事前の世論調査で10%程度の人が未定(回答なしなども含む)でしたが、そうした人々が、過去の傾向とは異なり、真の未定ではなく、実はトランプに投票したいにもかかわらず未定と答えた可能性もあります。これも一種の見栄でしょう。
拮抗した世論調査は必ずしも信用できない?
おいおい、なぜ事前の世論調査と実際の結果が異なったのかのより詳細な分析結果は出てくることでしょう。ただ、ブレクジットのような「一発勝負」だけではなく、今回のような「異常値」の場合にも、拮抗した世論調査は必ずしも信用できないというのは、このビッグデータの時代に、ビジネスパーソンにとっても大きな教訓となったのではないでしょうか。