グロービス経営大学院の「テクノベートMBA」特別講座のうち、この10月期に開講した「テクノベート・シンキング」の講師、内山英俊氏にクラスの意義と意気込みを聞いた。
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20世紀は、人間が頭で考え、人間が手作業で処理することを前提とした思考プロセスの時代だった。それを極めた方法論が「クリティカル・シンキング」であり、ビジネスパーソンにとって最も基本的な思考スキルとして習得することが求められてきた。
21世紀の今は、クリティカル・シンキングをベースにしつつ、より上位の「テクノベート・シンキング」を学ぶ必要がある。
例えば、クリシンではMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive、重複なく漏れなく)を真っ先に習うが、人間なら1秒に1個か2個ぐらいしか思いつかないものが、コンピュータなら1秒間に数億個の項目を列挙できる。しかも、100%重複なく漏れなく、である。
問題解決において、人間の手作業では必ず優先順位をつける必要がある。だからクリシンでは「広げて、絞る」というプロセスを教える。しかし、コンピュータには必要がない。圧倒的な計算力で片っ端から計算すればよい。
このように、コンピュータが発達したことによって、人間よりもコンピュータの方が得意な領域が出現してきた。それをうまく活用して、1つ上位の思考を目指すのがテクノベート・シンキングである。
コツは、人間が理解可能な範囲の物量で考えないということ。表計算ソフトで何千行くらいまでなら人間の手作業で分析できるが、1兆件といった桁違いのデータ量を相手にする世界では、人間は全く太刀打ちできない。理解することも、見ることすらできない。テクノベート・シンキングは、そういうものを前提としている。
ならば、すべてコンピュータに任せれば良いではないかと言う人もいるが、そうではない。例えばチェスで人間とコンピュータが対戦すると、コンピュータが勝つ。ところが、それより強いのが「人間withコンピュータ」。対局を見ながら、人間がコンピュータのパラメータを調整すると、強い。一番弱いのも、やはり「人間withコンピュータ」。コンピュータが出した答えを人間が「そんなのおかしい」と勝手に解釈して別の手を打つ場合。これが最も弱い。
コンピュータが処理するデータ、出力するデータは、人間の理解できる範囲を超える。我々はそういう世界に生きているのだ。コンピュータが出したデータを信じられるか、パラメータの調整に意味を見いだせるか。そこが分岐点となる。だから、テクノベート・シンキングでは、アルゴリズムを知り、理解し、作れるようになることを目指す。それは、「コンピュータの考え方を作る」作業にほかならないからだ。
米国ではコンピュテーショナル・シンキングという学問が既にあり、5才児くらいから教えて始めている。テクノベート・シンキングはそのビジネスパーソン版だ。クリシンの基礎があれば、誰でも学べる。
クリシンやマーケティングは世界中の人たちが学んでいる。それを学ぶことは、ある意味、マイナスからゼロに上がること。スタート地点に立つことだ。それだけでアドバンテージが得られるわけではない。しかし、少なくとも日本ではテクノベート・シンキングを体系的に学べるのはこのクラスだけ。1つ上の競争領域にステップアップするためのチャンスを提供する。
(文・構成: 水野博泰/GLOBIS知見録「読む」編集長)