「それやっちゃダメ!」「ダメ元で頼んでみよう」・・・「ダメ」という言葉はあまりに日常に浸透しているので、これが囲碁から来た用語だというと驚く方もいるでしょう。漢字だと「駄目」と書きますが、「目」というのは囲碁では陣地の大きさを表す単位のことです。たとえば、終局に際し、両者の陣地を数えて白60目対黒50目なら白の10目勝ちとなるという具合です。
では「駄目」とは何でしょうか?
「駄目」とは白黒いずれの陣地にもならない個所のことを指します。勝敗に関係しないため、「意味のない目」「無駄な目」ということで「駄目」と呼ばれます。(ちなみに終局時に「駄目」を埋める行為を「駄目押し」と言い、こちらも念のための再確認という意味で広く使われています)
さて、囲碁で言う「駄目」と、ビジネスも含めて一般に使われる「ダメ」はとても似通っていると言えるのではないでしょうか。どちらの陣地にも属さず(=何も価値をもたらさず)、勝敗に寄与しない(=目的に符合しない)、意味のない「目」(=作業)。「駄目」を打つことは、言い換えれば非生産的な作業です。囲碁でもビジネスでも非常に無駄な行為ですね。
では、「駄目」を打たないためにはどんなことに気をつけたらよいでしょう?
一番重要なのは、目的を明確に意識することだと思います。これを見失うと、そもそも自分の仕事が意味のある手なのか、「駄目」なのかの判断ができなくなってしまいます。ほとんどの場合、目的に照らしてより意味のある手を積み重ねた方が、ただ作業するより業務効率が上がり、投資対効果は高くなります。自分が与えられた仕事の目的を常に考えることはもちろん、仕事を与える立場であれば目的や意義・背景を併せて伝えることも重要です。効率よく目的に近づくことになるし、モチベーションや能力の向上にもつながるためです。
ところで、「駄目」には2つ目の意味があります。囲碁は陣地を囲むゲームですが、陣地ではなく石を囲むこともあります。囲碁の石は盤上で呼吸することで活きているのですが、周囲を相手に囲まれると呼吸スペースがなくなって死んでしまいます(煩雑になるので詳細は割愛しますが、ぜひイメージで捉えてください)。この相手の石に囲まれて呼吸スペースがなくなることを「駄目が詰まる」といい、囲碁では避けなければならない愚形の一つとされています。(同じような状況を将棋では「雪隠詰め」というそうですが、これもかなり息苦しそうです・・・)
この2つ目の意味も示唆深いものがあります。「駄目詰まり」にならないこと、すなわち呼吸スペースを確保することはゆとりを持つことにつながるでしょう。自分を振り返っても、時間に追われしっかり準備ができないときなど、窮屈な状態で行うときはなかなかよい仕事ができません。企業のレベルで考えても、業界全体が先細りで将来が見えなかったり、グローバル化で競争環境が厳しくなったりという状況はあちこちに見られますが、タイムリーに対応できないままにどんどんと打ち手がなくなり、遂には身売りや撤退をせざるを得ないニュースをみるといつもこの言葉を思い出します(店舗を閉鎖せざるを得なかった百貨店や、海外の会社に事業部を売り渡した電機メーカーなどがそのよい例でしょうか)。当たり前のようですが、複数の選択肢があることや時間的余裕があることは、活きてよい成果をもたらすことの第一歩だということを思い知らされます。
「駄目」を打っている間に、気づいたら「駄目詰まり」になっていた、などということにならないよう気をつけたいものですね。