『グロービスMBAアカウンティング』から「損益分岐点分析の活用」を紹介します。
企業である以上、通常は利益をしっかり残すことが求められます。その際、行き当たりばったりで企業活動を行っていては、なかなか利益は出ません。利益を出すには(赤字にならないためには)どのくらいの売上高を上げればいいのか、あるいは、ある目標利益額を達成するためにはどのくらいの売上高を上げたり、コストを削減したりするべきなのかを前もって見積もっておくことが必要です。その際に役に立つのが損益分岐点分析です。この分析により、必要な売上高や許容できる費用を把握した上で的確にPDCAを回し、その数字が最終的に実現できそうなのか否かを見極めながら事業運営を行っていくのです。こうした基本をしっかり行うことが、強い会社を作るのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
損益分岐点分析の活用
会社が利益を増加させるためには、「売上高-費用=利益」の式からわかるように、売上高を増加させるか費用を減少させればよい。しかし、売上高を増加させるためには広告宣伝費などの費用も増加させなければならなかったり、逆に原材料などの費用を減らそうとすると売上高が減少したりすることも多い。利益を増加させるためには、売上高と費用の関係を上手にバランスさせることが必要である。そして、売上高と費用の関係を分析して目標利益を獲得するための計画策定に損益分岐点分析が役立つのである。
具体的には、将来の予想売上高に基づいて、固定費、変動費の発生予想額を計算し、これに基づいて計算された予想利益が目標利益よりも低い場合には、売上高をどれだけ増加させればよいのか、あるいは費用をどれだけ減少させればよいのかを知ることができる。また、費用を減少させる場合には、その内訳として変動費と固定費をそれぞれどれだけ減少させて達成すればよいのかといった目標を知ることができるのである。
それでは先のQ社の例を使って、利益計画のための目標データを計算してみよう(Q社の現在の売上高は1兆369億3800万円、利益は374億3300万円、固定費は3204億9100万円、変動費率は0.655、損益分岐点売上高は9289億5900万円である)。
まず、Q社が将来の経営環境の変化に対応していくために設備を一部売却し、製造工程の一部を外注化するなどしてコスト削減を積極的に行った結果、固定費については3100億円まで、変動費については変動費率を64%まで削減できたとする。このとき、利益は現在よりも多く、増益を維持できるような400億円を確保したいとすると、そのために必要な売上高はどの程度になるだろうか。
目標利益売上高 = (固定費 + 目標利益) ÷ 限界利益率
= (3100億円 +400億円) ÷ (1 - 0.64)
≒ 9722億2200万円
これは、コスト削減によって売上高が647億1600万円減収となったとしても、前期に比べて6%上回る増益となるような目標利益を上げることができる体制になったことを表している。
この結束、Q社では売上目標が9722億2200万円と明確になり、この段階での売上高を達成するためのマーケティング戦略を策定するステップへ入っていくことになる。
このように損益分岐点分析を利用することによって、売上高をはじめとする目標が明確になり、会社が利益計画を具体的な戦略として描くことができるようになる。
次にQ社の来期の売上高が、不況と市場の競争激化によって1兆円まで低下することが予想される場合に、現在よりも多い390億円の利益を確保して増益を達成するにはどうすればよいかを考えてみよう。この目標利益を達成するためにはコスト削減が必要になるが、これを固定費の削減あるいは変動費率の削減によって達成しようとすると、それぞれどの程度の削減を行う必要があるだろうか。
まず固定費を削減する場合を考えてみる。
1兆円 = (削減後固定費 + 390億円) ÷ 0.345
削減後固定費 = 3060億円
現在の固定費は3204億9100万円なので、この目標利益を固定費の削減だけで達成しようとした場合、削減しなければならない固定費は144億9100万円となる。
次に変動費を削減する場合を考えてみる。
来期予想売上高 = (固定費 + 目標利益額) ÷ (1 - 削減後変動費率)
1兆円 =(3204億9100万円 + 390億円) ÷ (1 - 削減後変動費率)
1 - 削減後変動費率 = 35.95%
削減後変動費率 = 64.05%
現在の変動費率は65.5%なので、この目標利益を変動費率の低下だけで達成しようとすると、削減しなければならない変動費の比率は1.45ポイントとなる。
これは予想売上高と目標利益が明確になったことによって、コスト削減目標が明確になったことを表しており、次のステップとして、これだけのコスト削減を実現するための戦略策定へと入っていくことになる。またこの例では、固定費だけ、あるいは変動費だけの削減を前提としたが、固定費と変動費の両方を削減させることによって、あるいは固定費を変動費化し、変動費の増加分以上の固定費を削減することによって目標利益を達成する方法など、コストの削減方法にはいろいろな組み合わせがある。状況に応じて使い分けることが必要である。
(本項担当執筆者: 西山茂)
次回は、『グロービスMBAアカウンティング』から「ABCとは何か」を紹介します。
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