こんなシーンを想像してみてください。あなたは米国支社から出張してきた同僚に英語でプレゼンテーションをしています。しかし始めてから数分後、あなたは同僚の一部がスマートフォンを見ていることに気が付きます。何人かは腕を組んでつまらなそうな顔で座っており、なんと1人は寝ています……。
なぜでしょう?あなたはプレゼンテーションに向けて大変な努力をしました。30分のプレゼンテーションのために30枚のスライドを作り、それぞれのスライドの余白が無くなるくらい、びっしりと的確な情報を書き込みました。スライドの最後の一枚まで進んだとき、あなたのプロジェクトを承認したくなるような大量のデータ、根拠や情報を含んだストーリーラインを作りました。ちなみに、このプレゼンテーションは日本人の同僚に対しては大好評でした。
下手なプレゼンテーションは世界中で見られる問題です。しかし、私は5年前に来日してから、日本固有のクセがあることに気付きました。日本では効果的かもしれませんが、英語ネイティブの聞き手にプレゼンするなら、変更する必要のあるクセです。これらについて考えることで、どうしたらもっと上手にプレゼンテーションできるようになるかを学びましょう。トレーニングと練習をすれば誰でも上手くなれます。さっそく始めましょう。
聞き手の視点でプレゼンテーションを作る
まず、聞き手が何に関心を持っているかを把握しなければなりません。彼らには何が必要で、どういった問題や懸念があるのでしょうか。次に、それをプレゼンテーションの目標にどのようにマッチさせるかを考えましょう。あなたが言いたいことではなく、聞き手が関心を持っていることにプレゼンテーションの焦点を合わせることがポイントです。時にこの2つのことは全く異なる場合があるにもかかわらず、プレゼンターは、聞き手が何を聞きたいかではなく、自分が何を言いたいかに執着することがよくあります。
聞き手にとって最善のことをすると自分の作業は増えてしまいますが、それをするのがプレゼンターであるあなたの仕事です。聞き手を顧客として考えてみると、よくわかります。あなたは顧客に常に最善のサービスを提供したいと考えているでしょう。プレゼンテーションも同じです。聞き手に思いやりを持ち、プレゼンテーションで「おもてなし」をしましょう。
起承転結は省いて結論から始める
英語のプレゼンテーションでは、素早く要点を述べた後に根拠を示して要点を補強しなければなりません。一方、日本語のプレゼンテーションでは、要点を述べる前に根拠と裏付けを長い時間をかけて示す傾向がみられます。英語話者の聞き手はあなたが要点を述べるのを待っているので、そのような起承転結アプローチをしてしまうと退屈させてしまいます。さらっと要点の概要を示し、その後にそれぞれの要点の説明をして裏付けをしていきましょう。
英語話者の聞き手は、あなたが費やした努力より実現した結果に対して関心を持っているため、わかりやすいメッセージを伝えることに重点を置きましょう。 これが聞き手中心の要素の一つです。
スライドはシンプルに作る
聞き手が日本人でも外国人でも、スライドを簡潔明瞭にすることで、聞き手にわかりやすい、聞き手中心のプレゼンテ―ションにすることができます。外国人の間では、日本人のプレゼンテーションはせわしなくてグチャグチャしていることで有名です。矢印、図表、文字、チャートが一枚のスライドにあまりにも多くあるように感じられるのです。
私はプレゼンターがそんなスライドを見せて、「すみません、見にくいですが」と言うのを何回も見てきました。私はそれを聞いて、見づらいとわかっているのならどうしてそんなスライドを見せるのかと疑問に感じてしまいます。あまりにもひどいプレゼンターです。
ではどうやったら改善できるのでしょうか。そのためには、「シンプル」を意識することが必要です。スライドの内容は必要なものに留めて、それぞれのスライドから減らすことができるものや省略できるものを見つけましょう。過ぎたるは及ばざるがごとしです。
具体的には、それぞれのスライドの文字量を減らしましょう。文字が少ないほど読みやすく、理解しやすくなります。そうすることで、スライドの空きスペースが増えるため、フォントをもっと大きくすることができます。フォントサイズは30、40や60にしてみましょう。絶対に30未満のフォントサイズにしないでください!
10や12のフォントサイズは印刷物上だと綺麗に見えますが、プロジェクターで映すと小さく読みづらくなります。Arial、CalibriやHelveticaのような見やすい英語フォントだけ使用し、プレゼンテーションは1種類のフォントで統一しましょう。
もう一点プロジェクターと印刷物について言うならば、プレゼンテーション用のスライドは印刷に適している4:3ではなく、16:9のワイドスクリーン・アスペクト比で作るべきです。最近のプロジェクターやノートパソコンはアスペクト比が16:9のため、視覚的バランスを良好に保つために必要な余白を、より広く利用できるようになります。
さらに、文章を画像で置き換えることができるならば置き換えてください。そうすることでもっと洗練されて見えますし、聞き手がスライドを理解しやすくなります。私たちの脳は、ある情報を聞いてから3日経つとその情報を10%しか覚えていません。しかし、写真を追加することで3日後でも65%覚えていられるのです。
目標は、10秒から15秒で聞き手が理解できることです。必要な内容がたくさんある場合は、一部を別のスライドに移しましょう。内容の少ないスライドがたくさんあるほうが、内容が多すぎるスライドが少しあるよりは良いです。スライドはタダですから。
日本語のプレゼンテーションをそのまま英語に翻訳しない
日本語のプレゼンテーションを単純に英語に翻訳するべきではない理由を3つ挙げます。
(1) 論理の順序がおかしくなり、要点を述べるのが遅くなり過ぎる
(2) それぞれのスライドの内容が多くなり過ぎる
(3) 文字が多くなり過ぎて読みづらくなり、フォントがおかしく見える
ではどうすればいいのでしょうか。英語話者の聞き手のために新しくプレゼンテーションを一から作り直す必要があります。作業はもちろん増えますが、こうすることでより聞き手のニーズにマッチしたプレゼンテーションができますし、これ以上に大事なことはありません。
以上が、スライドの見た目をより魅力的にし、聞き手を飽きさせない方法です。これであなたは社内のほとんどの人よりプレゼンテーションの設計が上手くなることでしょう。おめでとうございます!
しかし、ロボットみたいな話し方でプレゼンテーションをして聞き手を死ぬほど退屈させない、という課題は残っています。より効果的なプレゼンテーションができるような立ち居振る舞い、話し方、ボディーランゲージの使い方は、次回取り上げます。
https://globis.jp/article/4834
良いプレゼンテーションを!