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理論株価とは: 企業の価値は市場が決める

投稿日:2016/07/30更新日:2021/10/26

『グロービスMBAファイナンス』の第8章から「株価の理論値」を紹介します。

株価は往々にして、市場のセンチメントや投機的な動きで決まることが多いように考えられています。そうした要素は否定できないものの、長い目で見れば、株価はその企業が将来生み出すであろうキャッシュフローを反映したものになる、というのがファイナンスさらにはMBAの大前提です。そして、そのキャッシュフロー創出の見込みを判断するのは、あくまで市場です。企業が適切な投資をし、それがキャッシュフロー創出に貢献すると市場が判断すれば株価は上がるし、逆の場合は株価が下がります。市場の眼は冷徹であり、長い目で見れば概ねそうした市場の判断は正しいことが多いのです。だからこそ経営者は市場に評価されるような意思決定を行い、それをタイムリーにディスクローズしていく必要があります。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

株価の理論値

企業価値を算出したら、株価の理論値を計算することができる。企業価値は資産(A)の市場価値であり、それは負債(D)と株主資本(E)の市場価値と等しい。このうち、借入時に元本と金利の条件が決められる負債の価値が、簿価と大きく乖離することはあまりない。

したがって、企業価値から負債を引いたものが株主資本の市場価値となる。これを発行済み株式数で割ったものが株価の理論値となる。
  

簡単な数字を使って企業価値と理論株価を計算してみよう。

A社は毎年100億円のFCFを創出し、それが永続するとする。負債は300億円。割引率は10%。発行済み株式数は2億株とする。A社の企業価値と理論株価は次のようになる。

A社の企業価値= FCF/割引率=100/0.1=1000億円
A社の株主資本の市場価値=企業価値-負債=1000-300=700億円
A社の理論株価=株主資本の市場価値÷発行済み株式数
=700÷2=350円

仮にA社の今日の株価が300円だとすると、A社の株は市場から適正に評価されていないことになる。その場合、A社の株は「買い」と判断できることになる。

企業価値と、そこから導かれる株価の理論値のメカニズムを理解すると、アメリカの経営者がしばしば口にする「経営者の役割は株価を上げることだ」という言葉の意味がわかる。その言葉の裏には、「株価を上げるためには企業価値を極大化しなければならない。企業価値を極大化するためには長期的なキャッシュフローを極大化しなければならない。長期的なキャッシュフローの極大化を約束するのは競争優位を確立することだ」という強固なロジックが存在しているのである。

したがって、株価を上げるということは、長期的な観点から経営を行うことを意味するのである。また、競争優位が構築できたかどうかは株価でチェックされるのだ、という定量的な縛りを自らに課していることにもなる。「あらゆる手を打つことで業績を伸ばします」と経営者がいくら力説しても、株価が反応しなければ、それは単なる願望にすぎないということである。

そうすると、株価は企業の実力を表す指標として優れていることがわかる。それは他の指標と比較すると明らかである。例えば、売上と利益は過去の実績はわかるが、将来の見込み数字については来年度のものしか企業から公表されない。それより先の見通しはわからない。また、数字の発表もせいぜい年に2回しか行われないので、情報の鮮度もよいとは言えない。マーケットシェアも有力な指標であるが、シェアが実力を表すビジネスもあれば、そうとは言えないビジネスもある。また、シェアの情報は、入手することが必ずしも容易ではない。

それに比べて、株価の情報は、現在から将来に向かって会社が創出するキャッシュフローの現在価値に対する市場の審判であり、その数値は毎日入手することができる。おまけにタダで手に入るのである。

もちろん、株式市場において日々形成される株価と理論株価が常に一致している保証はない。株式市場には相場の動向やオーバーシューティング(過剰反応)という要素もあるので、短期的に見ると株価と理論値が乖離することも多い。このため、株価は実業から遊離した投機的なものと思われることもある。

しかし、長期的に見た場合、株価はそれがよって立つ企業のキャッシュフロー創出能力と無関係ではありえない。他の条件を同じとした場合、業績の劣った企業、つまりキャッシュフロー創出能力が弱い企業の株価が、キャッシュフロー創出能力に優った企業の株価を持続的に上回るということは、決してないのである。投機的な価格は本源的な価格に収斂するというのが、市場のメカニズムである。

(本項担当執筆者: グロービス・エグゼクティブ・スクール講師 山本和隆)

次回は、『グロービスMBAファイナンス』から「最適資本構成」を紹介します。

https://globis.jp/article/4610

グロービス出版

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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