本書の主題は、社会的課題を解決することで数千億円規模の新規事業を創ることができるということ。加えて、具体的にどのような手順で進めればよいのかというプロセスを事例と物語で説明している。その分野に取り組んでいる私にとって、
まず指摘しているのが、バブル期には時価総額100億ドル以上の企業数は米国より日本の方が多かったが、2013年時点では完全に抜かれているという点だ。なぜ、そうした逆転が起こったのか。いろいろな要因があるだろうが、本書は社会的課題を産官学連携によって解決することを目指すビジネスプロデューサー力の格差が開いたためと断じている。日本の組織の焦点は、現業の効率化に過度に傾いてしまったと筆者は戒めている。
では、大企業の次の柱となる事業を作ることのできるビジネスプロデューサーは、何をすればよいのか? 筆者は、最も大切なポイントは、既存の枠組みでは解決できていない社会課題を産官学の連携で解決することであり、その連携をビジネスとして成立させるために、5つのステップを押さえることが重要だと述べている。すなわち、「構想する」「戦略を立てる」「連携する」「ルールをつくる」「実行する」だ。
このステップを遂行し切るために、コンプライアンスや短期的な利益が重視される現場とは大きく違う価値観が必要となる。そのため、「嘘はつかないが法螺は吹く」「業界やグループの壁を越えてビジネスを行う」「法律は、必要性が認められれば変更できるし、新しい法律が必要と判断されれば新しくつくられるものだ」「こんな赤字、数年後に倍返しだ」といった意識や行動をビジネスプロデューサーに勧めているのだ。
中核には、社会的課題がある。大きな社会的課題に取り組めば、それだけ大きな求心力と推進力を得られ、大きな経済的なリターンも得ることができる。「『一緒に、この社会的課題を解決しませんか』そう声をかけられれば、むげに断るわけにはいかないだろう」というくだりは、同意される読者も多いのではないだろうか?例えば、「難病に苦しむ人を助けるために、御社の技術が必要です。もちろん、その技術を出していただければ、相応のリターンがあります」と声をかけられれば、心動かされるのではないだろうか?
卑近な例で恐縮だが、私も、社会的課題解決に向けて、事業創造を行っている。一般社団法人全国FROM PROJECT(略称「ふろぷろ」)だ。ゼロから始めて2年間で、3県・7都市に活動を広げた。地域の高校生が、自分たちのテーマに対して解決する取組を実行していくことをサポートする取り組みだ。各種メディアにも、少しずつ取り上げられるようになった。数百万円ではあるが、ファンディングにも成功してきた。
ここでは、人口急減・超高齢化という日本地域の社会的課題に取り組むことで、地域活性化を願う団体や震災復興を目指す財団、生徒の可能性を引き出そうとする先生方などからの支援を受けることができた。一つの団体では、到底できないことが、社会が求めているものを提供することで、周囲の後押しを頂けた。本書のスケール感には到底及ばないが、本書の手法の有効性は、私自身体感してきたところだ。
新規事業を創出する際に、社会課題を考えていなかった、もしくは、社会課題を踏まえつつも具体的にどのように進めれば良いのか分からなかった方に、ぜひ、お勧めしたい一冊だ。
『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略』
三宅 孝之 ・崎 崇 (著)株式会社PHP研究所
1,800円(税込1,944円)