ビジネスの理論書でありながら、読みながら涙が止まらなかった本がこの『U理論入門』だ。ところが、「何だかよく分からなかった」と言う人も多く、読んだ人の感想が2極化する本でもある。その理由は、本書が人間の内面のあり方に着目し、自己の意識の変容プロセスについて解説しているからであろう。
私自身は本書を読んで自分の意識が変わり、結果として仕事面では一体感を持ったチームビルディングに役に立ったし、プライベートにおいては持続的な夫婦円満にも役に立っている。
「U理論」とは、マサチューセッツ工科大学上級講師、C・オットー・シャーマー博士が提唱する「人と組織にイノベーションを起こすための原理と実践手法」を示した考え方であり、本来は600ページに渡る難解な学術書である。それを、もっと分かりやすく、実践方法にも具体的なワークや事例を用いて理解を深めるように書かれた本がこの『U理論入門』である。
U理論が生まれたきっかけは、コンサルティングファームのマッキンゼー&カンパニーのマイケル・ユングが、オットー博士と組んで実施したあるプロジェクトである。そのプロジェクトというのは、世界中のトップクラスの革新的なリーダー130名にインタビューして、リーダーシップと組織、戦略についての理論を体系化しようというものだった。その時の知見が元になって、組織変革や社会変革の現場での体験を元に理論をブラッシュアップして生まれたのがU理論である。
この理論の画期的な点は、優れたリーダーたちの行動を真似しようということではなく、ブラックボックスになっている彼らの内面の「意識の変容」プロセス(=Uの谷)を解明し、それを意図的に再現する方法を示していることだ。加えて、個人の自己変革に留まらず、組織や社会の変革にも適用できる汎用的な原理であることも特筆すべき点である。
本書には、様々な事例が出てくるのでイメージがしやすいが、個人的に社会問題の解決の可能性を一番実感できたのが、東日本大震災の際に全国に急速に広がった節電アクション、別名「ヤシマ作戦」の事例であった。ソーシャルメディアによって、従来のマスメディアや政府主導の呼びかけでは成し得なかった速度で広がりを見せた。オットー博士が語る「コレクティブリーダーシップ(集中的リーダーシップ)」の可能性を実感できる事例である。
本書が、過去の自分の経験を振り返るきっかけとなり、意識変容のUの谷をくぐり抜ける助けになることを願っている。
『人と組織の問題を劇的に解決するU理論入門』
中土井僚 (著)PHP研究所
1,800円(税込1,944円)