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人材育成: 投資をサボっていませんか?

投稿日:2016/05/21更新日:2021/10/26

『グロービスMBA組織と人材マネジメント』の第4章から「人材育成」を紹介します。

組織は突き詰めれば個々人のレベルを上げないと生産性が向上しません。それを採用や評価・報奨といったシステムのみで行うことは難しく、人材育成が必須となってきます。トヨタ自動車やGEといった世界でも一目置かれる優良企業は、この部分に非常に投資をしています。投資というのは研修費などの金銭的支出に留まらず、マネジャーによるコーチングや、リーダーのメッセージの伝授などの手間暇や時間も含みます。また、重要な点として、単にスキルだけではなく、組織としての一体感を醸成したり、メンタルモデル(思考様式、物事を考える前提)を揃えるためにも多大な投資が必要ということが指摘できます。これをさまざまな手法で、さまざまな工夫とともに行うからこそ、結果を出せる人材が拡大再生産されてくるのです。往々にして業績が厳しくなると、人材育成のための投資をサボってしまう企業がありますが、それは数年後に悪影響をもたらす可能性が高いことを銘記しておきたいものです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

人材育成

ここまでは能力開発という視点に沿って説明してきたが、ここで視点をもう少し広げ、「人材育成」という点について考えてみよう。

社員の育成は、社員個人にとっても会社という組織にとっても重要なことである。日本の企業組織は伝統的に、OJTを中心としながら、OFF-JTを組み込み、人材を育成するというやり方を採ってきた。OJTにせよ、OFF-JTにせよ、能力(一般能力と企業特殊能力の両方)の開発に加え、その組織ならではの仕事のやり方を身につけ、また組織文化を伝承し、その組織で望まれる行動様式をとれるようにすることが重要なポイントとされてきた。同時にその企業の戦略を適切に実行し、新しい戦略を生み出せるような人材を育てることも重要なポイントである。

実行力を高める人材育成

近年、あらゆる組織で注目されているのが「実行力」だ。実行力は、「組織のビジョンや戦略を実現するために現場のリーダーが、メンバーとのインタラクションを通じて、課題を1つひとつ具体的行動レベルに落とし、やり抜かせること」と言い換えることもできよう。

業界のトップ企業(特にグローバルでのトップ企業)の多くは、単に戦略が優れているからその地位にいるのではない。戦略が妥当であることに加え、実行力に秀でているからである。そして彼らは、実行力を高めるために莫大なエネルギーをかけている。

具体的には、日常の管理職からのコーチングにそうした要素を盛り込んだり、人事考課の重要の評価要素としたり、階層別にタイムリーに研修を織り込むなどである。

■トヨタの事例

たとえばトヨタで特にこだわっているのが、「型」と企業文化の伝承である。「型」とは、その組織における標準的な仕事の進め方、成果を導き出すプロセス、そのベースにある思考方法のことである。型としてはいわゆるトヨタ流問題解決、組織文化としてはトヨタ・ウェイをあらゆるスタッフが身につけ、組織としての生産性を高め続けることを強く意識している。あらゆるスタッフがこれを身につけることで、究極の品質管理を実現するというトヨタの経営方針がその根底にある。ここではトヨタ流問題解決について簡単に触れよう。

トヨタ流問題解決は、表面的には図表に示したような手順に基づく問題解決プロセスであるが、これを現場で生かすためには、単なる技術的なスキルとしてこれを理解するのではなく、その裏側にある、トヨタの企業文化とも密接に関わってくる基本原理を体得することが不可欠である。

ハーバード・ビジネススクールのスティーブン・スピアは論文「トヨタ生産方式はこうして再現される」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2004年9月号)において、その基本原則として以下の4つを指摘した。

「じかに観察するにしかず」
「提案する変更は必ず実験する」
「従業員もマネジャーも極力頻繁に実験すべし」
「マネジャーはコーチでありみずから問題を解決してはならない」

スピアは、トヨタは表面的な技術以上に、OJTやOFF-JTを通じてこうした原則を理解・体得したマネジャーやスタッフを育成することにとことんこだわっており、現場においてあらゆる作業や業務が継続的な「実験」として組み込まれている点がトヨタの強さの根源であると考察している。

トヨタは従来より、新入社員の頃からこのトヨタ流問題解決を教育することに時間を使ってきたが、最近では以前に増してカリキュラムを充実させ、新人への教育に時間と手間をかけている。

■GEの事例

GEでは、型に相当するものがシックス・シグマでも有名になった「DMAIC」(Define/Measure/Analyze/Improve/Controlの頭文字をとったもの)であり、組織文化が先に説明した「GEバリュー」である。 GEは、この2つを徹底的にこだわって業務を行い、人材を育て、伝承していくことで、組織の実行力を高めている。

GEはトヨタとは多少異なり、全体的な底上げ以上に、第2章でも見たようにリーダー、マネジャーの育成によりフォーカスした育成システムをとっており、リーダー候補に戦略的に業務経験を積ませてスキルアップを図っている。

GEにおいて「型」と企業文化を伝承するうえで大きな役割を果たしているのがクロトンビルのコーポレート・ユニバーシティである。その歴史は古く、1956年に設立されたコーポレート・リーダーシップ研究所がその起源である。いまや、年間1万人を超える受講生がクロトンビルで学んでいる。そこでは単にマネジメント研修が提供されるだけではなく、自社の課題について議論したり、CEOが企業ビジョンを説いたりしている。 GEのクロトンビルで学んだ経験が、人材市場で1つのステータスとなるほどである。

ちなみに、GEはホームページにおいて、こうした活動について以下のように説明している。

「競争力を維持する最良の方法は、組織全体にわたり情報を共有し、変化を続ける市場のニーズに関する知識を増やしていくことだと私たちは考えています。知識を増やせば、お客さまや市場の変化するニーズに職務を常に対応させられるので、GEの競争力を高めるだけでなく、全社員を保護することにもつながります。

社内外の研修イニシアティブを通じ、GEは年間10億ドル以上を研修や能力開発に投資しています」

いずれにせよ、強いリーダーの育成こそが企業の力を高めるという信念がその根底にあるのは間違いない。

(本項担当執筆者: グロービス経営大学院教授 佐藤剛)

次回は、『グロービスMBA組織と人材マネジメント』から「多様性のマネジメント」を紹介します。

https://globis.jp/article/4382

グロービス出版

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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