私たちは日々、何らかの「学びの要素」に接しています。たとえば、本やセミナー、ネット記事、そして、日々の実務上の経験なども学びの要素になります。こういった多くの学びの要素を一つひとつ確実に自分の血肉にして、仕事のレベルを高めていく人がいます。その一方で、いくら学んでも仕事の質が変わらない人がいるのも事実です。この違いはどこにあるのでしょうか?今回はその点について、「学びの高度」というキーワードをもとに考えていきたいと思います。
まず、学んだことと実務が切り離されている人の特徴を見てみましょう。そこには、学んだことが個別具体論で終わってしまうという共通項があります。たとえば、ある企業の成功事例を見聞きしたとしても、「あの企業だからうまくいった」「あの経営者だからうまくいった」「あの時代だからうまくいった」というように、すべてを特殊事情として認識してしまいます。言うまでもなく、個別具体論で閉じてしまえば、まったく同じことが起きない限りはその知識を活用することはできません。自分が業務上で何らかのミスをしたとしても、まったく同じ場面に遭遇しない限りはその経験は生きることなく終わってしまいます。
大切なのは、こうした個別の学びを一段上に抽象化することです。失敗から学ぶとしても、「A社の営業ではこういうことはしてはならない」というような個社の具体論で終わるのではなく、抽象度を上げて、「大企業の部長クラス相手の営業では、初期訪問においてこういうことを外してはならない」など、適用範囲をギリギリまで広く抽象化することが大事です。そうすると、一気に適用できる事例が増えるため、まったく同じではなくても似たような場面に遭遇した際に、その経験が生きてくるのです。
このことを私は「高度」に例えて話すことがあります。個別具体論での学びのレベルは、たとえば「高度2メートル」と例えています。つまり、適用範囲が2メートル半径に入るものしかありませんので、学びの適用範囲は極めて限定的です。したがって、その学びの適用範囲を広げるならば、高度を高めなくてはなりません。イメージで語るならば、50メートルくらいまで飛んでみることです。50メートルの高さまで立てば、2メートルの視界と比べて多くの事象に適用範囲が増えることに気づくでしょう。
もちろん、その一方で、逆にジャンプしすぎ、つまり適用範囲を広げすぎて失敗するパターンよりもあるでしょう。1つの企業事例だけをベースに、100メートル視点までジャンプして、業界全体のことを語り始めれば、「そんなことまでは言えない」「それは例外事例だ」というツッコミを受ける場合もあるはずです。
そう考えると、1つの事象から適度に50メートル程度までジャンプをする、というのは実は相当難しい話です。所詮1つの事象はある特定の状況内で起こった個別の事象にすぎません。「本当にそこまで言えるのか?」という疑問はいつまでも付いてくるでしょう。大抵の人は、ここで壁にぶつかって、ジャンプすることをやめてしまいます。しかし、それではいつまでたってもジャンプ力はつきません。
大切なことは、「ここまで言えるのかな?」という健全な疑問を持ちつつ、まずは果敢にジャンプするトレーニングを繰り返すことです。つまり、1つの事象から敢えて思い切った解釈をしてみること。これがスタートです。「それは例外事例だ」というツッコミを受けて初めて学べることもあります。何もジャンプしないで2メートル範囲にとどまっていれば決して気づけなかったこと。そういう意味ではツッコミ上等です。
結果的には、こういった思い切ったジャンプを繰り返すことで、適切な高度まで飛ぶことができる「筋肉」が付いてくるのです。この50メートルまで飛べる筋力こそが、何よりも大切です。
グロービスでは、いろいろな企業の事例を扱うケースメソッドの授業を取り入れています。扱うほとんどの事例は、自分の業界とは関係ない話になります。しかし、このジャンプ力が鍛えられてくると、全く違う業界であっても、一旦50メートルまで抽象化することによって、自分の立場や業界まで関係する示唆を得ることができるのです。一見関係ない事例であっても50メートルまで飛んでから、自分の身の回りに関する仕事の範囲に飛び降りる、という三角ジャンプのイメージです。
こうしたジャンプ力は「意識する」だけでは鍛えられることはありません。筋力なので、反復実践こそが近道です。ジャンプできていない、という問題意識を感じた方、まずは思い切って果敢な解釈を語ってみましょう。反論上等。その過程で筋肉は鍛えられていくのです。
※本記事は、FM FUKUOKAの「BBIQモーニングビジネススクール」で放送された内容を、GLOBIS知見録用に再構成したものです 音声ファイルはこちら>>
イラスト:荒木博行
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