キャンペーン終了まで

割引情報をチェック!

『風姿花伝』ーービジネスパーソンに贈る読書ガイド

投稿日:2008/03/01更新日:2019/04/09

「花伝書」の俗称でも知られる本書は、芸術論としてだけではなく、人生論としても読めることから、今でも人気が高い。そこにある普遍的な真理とは何か――。

グロービス経営大学院講師の嶋田毅が創造と変革の志士たちに送る読書ガイド。

3e4ee02edd0ec6fe8c63a9c68cea96a6

グロービスでは(特にシニアマネジメントの間では)今、陽明学や新渡戸稲造、内村鑑三など「古典」が大流行りである。理由はシンプルだ。ビジネスを突き詰めていくと、結局人間を突き詰めていくことになる。では、人間の本質を知るには何に学べばいいのか?この問いに対する一つの有効な答えが、古典なのだ。幾多の風雪を経て、現代に残った古典には、残っただけの理由――人間の本質や普遍的な人間観、人生観に関するヒント――がある。また、先人たちの努力の上に今の我々の生活があるのだという、きわめてシンプルなことも再確認させられる。

自分自身、30代前半まではあまり古典を読まなかった。というか、むしろ馬鹿にしたところがあった。しかし、歳をとるにつれ、古典の面白さがわかるようになってくる。この感覚を若い方に腹落ちするように伝えるのはなかなか難しいのだが、少しでも多くの方に、古典に対する関心や興味を持ってもらえるきっかけになればと思う。

さて、本書は、今からおよそ600年前に、猿楽(現在の能楽)の大家として有名な世阿弥が著したものである。1400年ごろといえば、ヨーロッパではルネッサンスによって、長くて暗い中世がようやく終末を迎えつつあった。アメリカはまだ歴史に登場しておらず、中国はようやく明王朝がその基盤を確立した時期である。こうした時代に、世界的にも知られる芸術論がわが国で著されていたのは驚くべきことである。

世阿弥は将軍足利義満などの庇護を受け猿楽を進化させ、『風姿花伝』を記した。父であり師匠でもある観阿弥から相伝された奥義を、世阿弥なりに咀嚼して述べたパートもあれば、経験の中から世阿弥が独自に持つに至った考え方を語ったと思われるパートもある。今風に言えば、「暗黙知の形式知化」ということになろうか。

世阿弥がどのような動機からこの形式知化を行なったのかは分からないが、600年後の後世に生きる我々がいまだその思想に触れ、インスピレーションを得られることができるのは、誠に有難いことである。同時に、「実践・教育・研究・執筆」に同時並行的に携わる者として、尊敬の念を禁じえないし、また励みにもなる。

本書の有名なフレーズとしては以下のようなものがある。

●秘すれば花。秘せねば花なるべからず

●物数を極むる心、即ち、花の種なるべし。されば、花を知らんと思はば、先づ、種を知るべし。花は心、種は態(わざ)なるべし

●年来稽古条々, 物まね条々をよく心に刻んで,能を尽くし、工夫を極めて後、此花の失せぬところを知るべし

●花と面白きと珍しきと、これ三つは同じ心なり

●上手は下手の手本なり 下手は上手の手本なり

(なお、「是非とも初心忘るべからず、時々の初心忘るべからず、老後の初心忘るべからず」は、世阿弥が『花鏡』で述べた有名なフレーズ)

心は花であり、種は技である。技は種であるから、これがなくては花は咲かない。しかし、どれだけ表層的に技を身につけても、心を滋養しておかないとやはり花は咲かない。そして真に達人となれば、時と場を勘案しながら人々に斬新なもの、興味深いものを提供することで感動を与えることができる。これは芸に限らず、あらゆる人間活動に共通するものだ。そして、時間軸・年齢軸や「場」との関わり方なども意識した上で、自己を高め、同時に自分の強みが最大限に活きる舞台を模索するという考え方は、これからも人々の心を捉え続けるはずである。

本書は、ページ数も少なく、章立ても分かりやすい。口語訳版や解説書も多い。時々引っ張り出して気に入ったフレーズを読み返すだけでも、そのたびに何かを感じられるのではないだろうか。特に、プロフェッショナルとして「技」を意識されているビジネスパーソンには、数ある古典の中でも一押しのお勧めだ。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

関連動画

学びを深くする

記事に関連する、一緒に学ぶべき動画学習コースをまとめました。

関連記事

合わせて読みたい

一緒に読みたい、関連するトピックをまとめました。

サブスクリプション

学ぶ習慣が、
あなたを強くする

スキマ時間を使った動画学習で、効率的に仕事スキルをアップデート。

17,800本以上の
ビジネス動画が見放題

7日間の無料体験へ もっと詳細を見る

※ 期間内に自動更新を停止いただければ
料金は一切かかりません

利用者の97%以上から
好評価をいただきました

スマホを眺める5分
学びの時間に。

まずは7日間無料
体験してみよう!!

7日間の無料体験へ もっと詳細を見る

※ 期間内に自動更新を停止いただければ
料金は一切かかりません

新着記事

新着動画コース

10分以内の動画コース

再生回数の多い動画コース

コメントの多い動画コース