「リーダー」と聞いて、あなたは誰の顔を思い浮かべるだろう?世界の政治家、有名企業の経営者、自分の上司、いや自分自身だという方もいるに違いない。あなたの中のリーダー像が、あなたのリーダーシップを後押しすることもあれば、あなたのリーダーシップ発揮を妨げたり、リーダーシップから距離を置かせたりすることもある。あなたの中のリーダー像は、ブレーキではなく、アクセルとして機能しているだろうか?
本書は、良くも悪くも各人が持つ固定的なリーダー像からの解放を訴え、次なる方向性として「強みを活かすリーダーシップ」「多様なリーダー像」を示してくれている。さらに、その効用と実践方法が記載されたガイドブックとなっている。メッセージは著者の次の言葉に集約される。
すぐれたリーダーに共通しているのは、それぞれが自分の強みを正確に把握していること。そして、適切な時に適切な強みを持つ人に協力を求めることができることだ。だから、すべてのリーダーを定義する決定的な特質というものはないんだよ。
本書は5つの章からなる。前半1章から3章までは、調査結果から明らかになった、「より有能なリーダーになるための3つの秘訣」が一つずつ披露される。コンパクトに要点がまとまっていることに加え、読者の「秘訣はよく分かった。では、どうすればいいか?」という問いを「待っていました」とでもいうかのように、後半の4章【実践編】に向け、読者にアクションを促す展開となっている。
1. 最も有能なリーダーは常に強みに投資している
⇒ まずは自分の強みを知ろう(付録のコードを使ってアセスメント・テストを受けよう)
2. 最も有能なリーダーは周囲に適切な人材を配置し、チームの力を最大限に引き出す
⇒ 自分だけでなく、相手の強みを知ろう
3. 最も有能なリーダーはフォロワーたちの欲求を知っている
⇒ 自分の強みを活かしながら、フォロワーの基本的欲求にこたえよう
読者は付録のアクセスコードを使って「ストレングス・ファインダー」というアセスメント・テスト(オンラインで1時間ほど)を受けられる。その結果から、個人の強みにつながる34の資質から、自分の中で優位を占める資質、上位5つを知ることができる。
ストレングス・ファインダーについては、先行書籍として『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』がある。本書ならではのポイントは、34の資質がリーダーシップの4つの領域(実行力、影響力、人間関係構築力、戦略的思考力)に分類され、把握しやすくなっていること。加えて、34の資質一つずつについて、「フォロワーの4つの基本的欲求に応えるための戦略」が具体的な関わり方として紹介されていることである(4章に該当、本書全体の過半のページを占める)。「フォロワーの4つの基本的欲求」とは、「信頼」「思いやり」「安定」「希望」の4つであり、フォロワー1万人以上を対象とした調査から抽出したという点が、職場リサーチおよびリーダーシップ・コンサルティングを専門とする著者ならではといえるだろう。
私もアセスメントを受けてみた。上位5つのうち1つの資質は自分にとっては予想外のもので、正直、的外れにも感じられた。納得感を求めて第5章【資料編】を読み進むと、ストレングス・ファインダーは、「厳密にいえば、“強みを発見する”システムではなく、“強みを伸ばす土台となる才能を診断する”システムといえる」と表現されていた。精通した友人からも「資質なので現時点で表出しているとは限らない。それは、あなたの強みの“種”なんだよ」という説明を受けた。なるほど、自分の中に、自分の気付いていない種があったのかと、なんだか嬉しくなった。
もちろん、「リーダーシップなんて自分には関係ない」「リーダーになんかなりたくない」という方もいるだろう。忘れないでほしいのは、誰もがリーダーシップにつながる資質を持っているということ。2016年、改めて「自分の強み」や「自分なりのリーダーシップのアクセル」を知り、一歩前に踏み出してみてはどうだろう。
『ストレングス・リーダーシップ―さあ、リーダーの才能に目覚めよう』
トム・ラス (著), バリー・コンチー (著), 田口 俊樹 (翻訳), 加藤 万里子 (翻訳)、日本経済新聞出版社
1,800円(税込1,944円)