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企業のマーケティング機能: 経営理念との整合性は取れているか?

投稿日:2016/01/23更新日:2021/10/21

『グロービスMBAマーケティング』の第1章から「企業におけるマーケティング機能」を紹介します。

マーケティング戦略は、当然ながらそれ単独で組織に存在するものではありません。経営戦略(全社戦略や事業戦略)、そしてさらにその上位概念である経営理念やビジョンとも整合していることが必須です。つまり、「とにかく売上げが上がればいい」というのではなく、企業の存在目的や存在意義に沿った形で「売れる仕組み」を構築することが必要なのです。特に昨今では、コーポレイトブランドの経営上あるいは競争上の重要性は、経営理念そのものと並ぶくらい重要になってきています。マーケティングの実務者としては、このようなことも意識した上で、組織を一段押し上げるような施策を立案・実行することが求められているのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

企業におけるマーケティング機能

マーケティング戦略は、全社戦略あるいは事業戦略に沿った形で策定・実施しなくてはならない。

例えば、ビールメーカーが新ビールの開発過程で、魅力的な酵母由来のサプリメントを開発できたとする。これを本格的に市場導入すべきだろうか。もしその会社が事業ドメイン(事業領域)としてあくまでビールにこだわるなら、サプリメントの製品化は諦めて、他社に権利を売却するなどの措置をとることになるだろう。逆にこれを機会と見なして、事業ドメインを「酵母を活かした食と健康」などに変更し、サプリメントを新事業として育てるという選択肢も考えられる。いずれにせよ、単純にマーケティングの観点のみで判断することはできず、全社戦略との整合性という文脈上で考えなくてはならない。

企業の戦略は通常、経営理念とビジョンを上位概念とし、それに沿って全社戦略、事業戦略、機能戦略という階層構造をとっているものだが、マーケティング戦略もそれと同じような構造となっている。つまり、全社レベル、事業レベル、製品レベルなど、それぞれのレベルでマーケティング活動が行われている。

製品レベルの視点では、自社が扱っている製品について「誰に何をいくらで売るか。それをどのように認知させ、どのように供給するか」をトータルで考えていく。だが、製品の数が増えるにつれて、個々の製品ベースでは最適なマーケティング戦略であっても、事業単位あるいは企業全体で見たときに、営業組織の連携がとれていない、製品ごとに表記や付随サービスにばらつきがあるなど、機能の重複や不整合が生じやすい。そこで、事業レベルあるいは、全社レベルでマーケティングの方針を決定することで、シナジー(相乗効果)を働かせながら製品間の調整を図っていく必要がある。全社レベルのマーケティング戦略では、さらにコーポレートーブランディングなど、会社全体に関わる事柄を扱う。

コラム: 事業ドメインと提供価値

ハーバード大学などで教鞭をとったセオドア・レビットは1960年に顧客ではなく、自社が提供する製品を中心に事業の定義をとらえているのは危険だと警鐘を鳴らした。その例として挙げたのが、アメリカの鉄道事業である。航空便の普及と車社会の到来に押されて1950年代に鉄道が斜陽化した原因は、自らを鉄道事業と定義していたからだという。

事業ドメインの定義の仕方によって、その企業が提供可能な価値の範囲が変わる。仮にアメリカの鉄道事業が、輸送の需要が増加していることに着目して、自らを総合運輸事業と考えていたなら、航空輸送から鉄道輸送、陸上輸送を束ねるコングロマリットが誕生していたかもしれない。                    1

実際に、顧客を中心にどのような価値を提供していけばよいか、という発想をすれば、提供可能なサービスの幅は広がる。例えば、阪急電鉄は事業の発展とともに「我々は鉄道会社ではなく、沿線地域を発展させ、人々の生活を豊かにする会社である」という柔軟な考え方をとり、それに沿って宅地化、動物園、映画館、歌劇場、野球場、さらには百貨店など沿線の土地利用に努め、乗客の創造に成功した。

事業ドメインや提供価値は、市場環境の変化に合わせて見直す必要がある。アメリカのレンタルビデオのブロックバスターは、DVDやブロードバンドの普及、新しいエンタテインメントであるゲーム市場の拡大を受けて、ビデオを豊富に揃えるだけでは事業の成長を続けることはできないことを悟った。そこで、社内でさまざまな議論を行い、自社の提供価値を「自宅で素晴らしい夜を過ごせるようにすることである」と再定義し、従来のドメインである「レンタルビデオ」よりも幅広い事業展開ができるように修正した。その結果、ビデオに加え、DVDを積極的に取り扱うとともに、ソフトドリンクやスナック菓子、アイスクリーム、映画情報誌など、顧客が楽しい時間を過ごせるように補完的製品をレジの付近に置いて販売するようになった(注)。

このように製品中心ではなく、顧客にとっての価値を中心に考えることにより、より多くの市場機会をとらえていくことが大切である。

(注)ただし、ブロックバスターはその後、ストリーミング配信を行うネットフリックス社などに市場を奪われ、連邦破産法11条の適用申請を行うこととなった。さしものブロックバスターも、破壊的イノベーションには対抗しきれなかったのである。

次回は、『グロービスMBAマーケティング』から「セグメンテーション」を紹介します。

https://globis.jp/article/3938

◆グロービス出版

 

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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