2005年に初版が発売され、その後世界350万部、43カ国で出版された『ブルー・オーシャン戦略』。このロング&ベストセラーが装いも新たに、さらに内容を拡充し日本にお目見えした。
本書の特長は、何と言っても「ブルー・オーシャン(&レッド・オーシャン)」というネーミングと卓越したアナロジーにある。市場をオーシャン(大洋)に例え、競争の激しい血みどろの「レッド・オーシャン」を抜け出し、競争のない「ブルー・オーシャン」を創造すべき、と説く。
こうした分かりやすいメッセージが世界を席巻し、「ブルー・オーシャン」はビジネス用語として定着した。のみならず、シンガポールやマレーシアでは政府が採り入れ、国力を高めているという。ひと言で表現すれば、実践的な“使える”戦略論なのだ。
実践面での一番の学びは、第2章「分析のためのツールとフレームワーク」にある。要約的に言えば、
・ 業界の標準や常識に対して、「取り除く」「減らす」「増やす」「付け加える」べき要素は何かを自問する(「四つのアクション」)
・ 各要素を結ぶ「価値曲線」を「戦略キャンバス」に描く
この2点で戦略を策定する、という流れだ。
新版においても、上述したメッセージや実践的な学びは変わっていない。幾つかの事例や文言はアップデートされているものの、第8章までは同一の内容である。逆にそれだけ完成度の高い一冊であったと言える。
その一方で、本書の主張から理論的な新しさを見出すことは困難だ。かねてより、現有する様々な戦略論の“焼き直し”ではないか、という批判があったことは否めない事実である。
例えば、「競争よりも新規市場の創出を重視する」という核心部分については、(技術革新という狭義ではない)イノベーション論の範疇である。また「四つのアクション」は、顧客が価値を見出す要因(KBF)を先ず洗い出すという意味において、マーケティングにおけるポジショニングと近い概念だ。
こうした批判や指摘に答える形で、第11章「レッド・オーシャンの罠を避ける」が新たに追加された。詳細は本書に譲るが、ブルー・オーシャン戦略の誤解を解くための主張が、結果として、様々な戦略論の本質を論じることとなっている点は興味深い。通底するのは、多くの戦略論を安易にイメージのみで理解したつもりにならないように、という戒めだ。
本書は競争の激しい戦略本カテゴリーにおいて、10年の長きに渡ってサバイブしてきたロングセラーだ。新版になったことでバリュー感も高まった(蛇足だが、価格は100円上がっただけ!)。これまで読む機会を逸して来た多くの方に自信を持ってオススメできる定番本だ。
ブルー・オーシャン戦略を「単に競争がない市場を選ぶべし」といった表面的なイメージで捉えている方にこそ、ぜひ手に取っていただきたい一冊である。