このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、重要パートを厳選して、抜粋掲載していく、ワンポイント学びコーナーです。
今回は、『グロービスMBAマネジメント・ブック』の「人・組織」章から「組組織文化と企業経営」をピックアップしました。組織文化は既存の従業員の意識・行動に影響を与えるだけではなく、採用や、間接的には企業業績にも大きな影響を与えます。HRMとOBHの両方に関連するテーマでもあります。経営者としてはその意義をしっかり理解し、良き企業文化作りに努めなくてはなりません。
組織文化と企業経営
【POINT】
組織文化は、組織の持つ信念、価値観、行動規範の集合体であり、企業の盛衰を左右する大きな要素の1つだ。組織文化は、企業の構成員のものの見方や行動を規定する。
◆組織文化とは
組織文化は、「組織構成員が共有する信念、価値観、行動規範の集合体」と定義できる。組織文化は価値観や行動規範として構成員の行動を規定する。そのため、企業としては、何らかの形で組織文化をコントロールすることが望ましい。また、企業は環境変化に合わせて組織文化を変えていく必要がある。
企業は組織文化を直接コントロールすることはできないが、間接的に影響を与えることは可能だ。そのためには、まずできるだけ具体的に組織文化を把握しておく必要がある。組織文化を把握するには、組織固有の行動パターンを観察するとよい。企業の場合、入社式をはじめとする儀式、創業当時の逸話、組織内でのみ通用する独特な言葉などに行動パターンの特徴が顕著に示される。
また、企業全体の組織文化だけでなく、企業内に存在する複数の組織文化に注目し、個々の組織文化に分解して把握することも重要だ。たとえば、営業や製造など部門単位で形成されるサブ・カルチャーや、企業全体の組織文化に反発するカウンター・カルチャーなどに注目するとよい。
◆組織文化の形成
組織文化がどのように形成されるかを考えてみよう。まず、組織文化の生成段階では、個々の構成員の価値観や信念などが衝突しあう。そうした相互作用を通じて、組織における判断基準や行動規範、価値観が形成される。この生成プロセスでは、リーダーシップを発揮する人の理念や哲学が大きな影響力を持つ。一般に、規模が小さかったり、従業員間の物理的・心理的な距離が近い組織では、相互作用が頻繁に起こるため、比較的容易に組織文化が生成される。
こうして生成された組織文化が次の浸透段階では、儀式や逸話、経営陣のメッセージなど具体的な形になったものや、すでに組織文化を共有している構成員との交流などを通して、他の構成員に伝播していく。構成員の行動パターンに影響を与える評価基準などをHRMの施策として示すことも、組織文化の浸透に役立つ。
◆組織文化の機能
組織文化は次のような機能を持つ。
■判断や行動の指針
組織文化は、とるべき判断や行動の指針を与える。その結果、意思決定のスピードを速め、学習コストを低減する。
■情報伝達の簡素化
組織文化は、判断や行動の指針を示すことによって、公的な情報伝達において伝えなければならない情報の量を軽減する。これにより、公的情報の伝達コスト削減や時間の短縮につながるだけでなく、情報の解釈における不確実性も小さくなるので、構成員間の誤解やコンフリクトを回避することができる。
■個人の動機づけ
組織文化は、組織の行動規範や価値観を通して、昇進や昇給などの評価基準を明確にする。組織文化によって、構成員は何を行えば組織で評価されるかを学び、自ら目標を設定し、実践するためのモチベーションを高めることができる。
これらの組織文化の機能は企業にとってよい影響を与えているように見えるが、実際には組織文化が障害となる場合もある。たとえば、あまりに強烈な価値観が組織内で共有化されている場合、構成員のものの見方が固定化し、環境変化を見過ごす原因になることがある。
組織文化の機能
次回は、企業経営とITのパートから「技術進化の捉え方」を紹介します。
(ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載しています)