本連載「ストーリーで学ぶ経営戦略シリーズ」では様々な立場の現場のマネジャーのストーリーを基点に、古今東西の優れた戦略論から彼・彼女らの仕事をより良くするヒントが得られるかを具体的に考えていきます。
ストーリー概要:
金澤は、中堅の化粧品・健康食品メーカー、ナチュラル・ビューティー(NB)社に務める経営企画部・経理担当課長である。
競争の激しい美容・健康業界においてNB社は、丹念なモノづくりの精神に基づいた品質の高さに定評のある中堅企業であり、特定の顧客層からは根強い人気を得ていた。特にマス広告などはしてこなかったこともあり、「知る人ぞ知る」という企業であったものの、一度購入した顧客からは高いリピート率を得ており、これによって確実に収益を伸ばしてきた。
しかし、昨今NB社の業績に異変が起き始めていた。今までは売上、利益ともに年平均3%ずつの成長を遂げていたのだが、この数年、成長がぱったりと止まってしまったのだ。その背景にあるのは、既存顧客のリピート率は継続的に維持できているものの、新規顧客をほとんど獲得できていない、という事実だった。「良い商品を作り続けていれば確実に売れる」という創業者の理念の下、愚直なまでにモノづくりにこだわっていたNB社では、マーケティングなどにはほとんど資金や人材を投下してこなかった。いわば顧客の口コミだけが頼りだったのだが、FacebookやTwitterなどを活用した競合のマーケティング戦略の陰に隠れて、まったく噂にも上らない存在になってしまったのである。
営業担当はこの状況に問題意識を持ち、「マーケティング担当の部署を作り、新規顧客に対する認知度向上のために積極的に資金投下するべき」、という意見を持っており、経営陣にもその考え方は共有されているようであった。
金澤は、その状況について、経理という立場から危機意識を持っていた。新規顧客の開拓に向けて資金投資することは賛成なのだが、新しく組織を立ち上げることになると、人件費も増えることが想定されるし、広告費用なども増えることになる。つまり、固定費が増加することになるのだ。「この状況下において、固定費が増えることは果たして良いことなのか。マーケティングに投資したとして、その結果を刈り取れるのは何年後になるのか」と、金澤は疑念を持っていた。NB社は、このままでは次年度にも赤字に転落しかねない。イメージを大事にする同社にとって、決算での赤字転落が紙面に掲載されることは絶対避けたいことでもあった。
一方で、金澤にはひとつのアイディアがあった。それは、お客様窓口センターのアウトソーシング(外注)である。NB社は設立当初からお客様窓口センターというものを自社内に抱えており、現在も30名程度の社員が所属していた。しかし、この機能を社内に抱えておくことに金澤は疑問を感じていた。顧客接点が大事なことは金澤も分かっていたが、お客様窓口センターは新商品が出た後などは忙しそうであるものの、繁閑の波が激しく、暇そうなときは稼働していないことも見受けられる。そして、クレーム処理など精神的に負荷のかかる業務も少なからず発生し、配属された社員の異動希望や転職者などが絶えなかった。昨年の異動で金澤の同期の佐藤も同センターにおける管理職という立場で急きょ異動になったのだが、佐藤からはどれだけ職場の雰囲気が悪いか、愚痴を聞かされることも多かった。他方、最近はお客様窓口センター業務に特化した業者も出てきており、クレーム処理対応も含めて、その手のプロフェッショナルがいるということも聞いていた。
金澤は自分の仕事ではなかったものの、内々にアウトソーシング会社に連絡を取り、アウトソーシングをした場合の簡易見積もりを入手していた。その見積もりを踏まえると、コスト削減効果は想像以上に大きかった。金澤は確信した。「お客様窓口センターをアウトソースし、その資金でマーケティングに投資すべきだ」と。もちろん、より緻密な試算は必要だが、経営企画部長にぶつけてみる価値はありそうに思えた。長らく抱えてきたお客様窓口センターだけに実際にこの意思決定が通るまでにはいろいろな障壁がありそうだが、このコスト削減の具体的な数値のインパクトに勝るものはないだろう、と金澤は考えていた
理論の概説:バリューチェーン分析―企業内部の各機能の流れ・つながり方に着目した分析
たとえば、皆さんが自分の会社、もしくは競合のとある企業を分析する必要が出てきたとしましょう。さて、皆さんはどのようなアプローチで会社を分析するでしょうか?
「企業分析」と言葉で聞く分には簡単ですが、実際にやってみるのは相当難易度が高いことです。財務的な視点から見るべきか?人材に着目して見るべきか?はたまた提供している商品やサービスの側面から見るべきか・・・?
企業というのはかなり複雑な構造によって成り立っているので、どこに焦点をあてるべきか、どういう切り口で見るべきか、ということを考えただけでも、何から手をつけたらよいのか分からなくなります。
今回ご紹介するバリューチェーン分析というのは、そういった企業分析において、企業がお客様に対して提供している価値(バリュー)というものが、具体的にどの機能や活動の流れによって構成されているのか、ということに着目して分析するアプローチになります。もう少し分かりやすく言えば、「企業が持っているもの」や「提供しているもの」に着目するのではなく、「企業内部のそれぞれの機能の流れ・つながり方」に着目した分析と言えます。
このバリューチェーンという概念は、1985年に出版されたマイケル・ポーターの『競争優位の戦略』に遡ります。
ポーターは、企業を分析するに際して、企業が提供している顧客価値を起点に、それがどのようなプロセスで価値提供に至っているのかを考えるべきであるとしました。具体的には、その価値提供に対して直接的に貢献している機能を「購買物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」という5つに、そしてその価値を間接的に支援している機能を「全般管理」「人事・労務管理」「技術開発」「調達活動」の4つに分解しました。そして、顧客に提供しているトータルの価値から、その9つの活動の総コストを引いた値(=下図の「マージン」に該当)が、その企業が生み出している価値である、と定義しました。
以上が『競争優位の戦略』にあるバリューチェーン分析の内容ですが、現実的には、これを自分なりに加工して使われることが多くなっています。たとえば、以下のように、主活動や支援活動を区分せず、また主活動5つ+支援活動4つという分類項目にこだわることなく表現する分析を指して、「バリューチェーン分析」と言っているケースが散見されます。
こういった分析は、ポーターの原典に照らし合わせればバリューチェーン分析とは異なるのですが*1、バリューチェーン分析の本質は、「企業内部の機能の流れ・つながり方を分析する」ということに立ち戻れば、本書では、このような企業内部の価値連鎖を表現するものを全て含めてバリューチェーン分析として包含したいと思います。
*1 厳密に言えば、ポーターの定義した「バリューチェーン分析」以外にも、似たような価値連鎖の概念を表すものとして、「バリュー・システム分析」、「ビジネス・プロセス分析」、「サプライ・チェーン分析」などが存在します。本書ではそういった定義は専門書に譲り、実務的観点から、全てを含めて敢えて「バリューチェーン分析」と定義しています。より専門的なことを理解されたい方は、マイケル・ポーター『競争優位の戦略』、伊丹敬之『経営戦略の論理』などをご覧ください。
バリューチェーンにはいくつかのレベル感がある
さて、その前提でバリューチェーンを考えた際、マクロレベルからミクロレベルまで様々な視点でのバリューチェーンが考えられます。
具体的に、マクロレベルで言えば、産業レベルでの価値の流れを表現したものになります。たとえば自動車産業というのは、自動車メーカーのみならず、かなり多くの業界の連鎖によって構成されています。一企業を超えた産業全体を俯瞰的に眺め、どの土俵(ドメイン)で戦うのか、ということを考える*2のに適しています。
*2 このように戦うべき土俵を考え、ダイナミックにそれを絞る、広げる、といったことによって競争戦略を立てて行くことを、ボストンコンサルティンググループは「デコンストラクション戦略」として提示しています。このあたりの話は、『BCG戦略コンセプト』に詳しく書かれていますので、興味のある方はご参照ください。
その1つ下の階層としては、具体的な企業、もしくは事業レベルでの価値連鎖を考えるものですこれがポーターの定義するバリューチェーン分析に該当します)。企業や事業がどのような付加価値を提供し、どこにコストをかけているのか、ということを分析するものになります。
そして、もっともミクロな視点が、業務の価値連鎖を考えるものです。個人や組織レベルでの活動を詳細に分解し、どこに課題点があるのかをあぶり出し、改善につなげていくものです。
身近な業務プロセスとポーターのいう戦略論の「バリューチェーン」をまとめて語るのは無理があるように感じる人がいるかも知れません。ただ、以下に記す通り、顧客に提供する価値から考えて、必要な機能の流れを分解していく、ということ自体に本質的な違いはありません。もし、産業や企業レベルでのバリューチェーンがイメージしにくい方がいれば、まずは身近な業務プロセスを題材に考えていただく、というのが早いと思います。
顧客価値を起点にステップを踏んで考える
さて、それではバリューチェーン分析はどのようにして進めるべきなのかを考えてみましょう。具体的には、以下6つのステップで考えることが基本になります。
(1) 顧客価値の理解
「バリュー」チェーン分析である以上、まずは提供している価値(=バリュー)そのものを理解することが分析の起点になります。
まずは我々が価値提供をしている相手を見定めて、具体的にどのような価値を提供しているのか、ということを把握しましょう。具体的には、「自分の組織は、顧客(場合によっては自分たちの後工程の組織)のどのような課題を解決しているのか?」ということを問いかけてみるといいでしょう。その解決しているものこそが、ここで言うところの「顧客価値」に該当します。
(2) 行動ベースの分解
顧客価値を理解したところで、その価値提供のために自分たちの組織がやっていることを、まずは愚直に行動ベースで分解してみましょう。ここではあまりにも細分化しても意味がありません。なぜならば、後工程で具体的な事実やデータを洗い出すことが付いてくるからです。つまり、事実やデータの裏付けが出来ないような行為まで分解しても単なる自己満足に終わる可能性があります。分解したとしても、せいぜい10個までが限界でしょう。
(3) 支援活動の定義
次のステップで大事なのが、支援活動の定義です。もう一度自分たちの組織が提供している価値と行動を見つめ直してください。その行動「だけ」で価値提供を継続的に続けられるでしょうか?おそらく、価値提供に必要ではあるけど行動には含まれないことが存在するはずです。たとえば、イメージしやすいようにミクロレベルの話で考えてみましょう。お客様に自動車を販売する自動車ディーラーの営業業務があるとします。顧客に対して最もニーズに即した車種とアフターサービスを提供する、という価値に対して、その行動としては、「顧客のニーズの引き出し」→「適切な車種の提案」→「試乗案内」・・・といったいくつかの行動に分かれます。これらの行動は全て直接的に価値貢献につながるのですが、たとえば社内ITインフラなどは、顧客の価値提供にはダイレクトにはつながらない一方で、価値提供に必須な仕組であることは間違いありません。このような視点で、価値を提供するために行動以外に必要な差分をインフラとして明記しておきましょう。
(4) 比較対象を定義する
その上で、何と比較するのか、ということを考えましょう。この分析は、「わが社もいろいろ大変ですね」といったことを言うためにあるのではなく、最終的に課題をあぶり出し、そこから何をすべきか、という示唆を導き出すためのツールです。そのためには、比較対象を明確に定め、その比較をベースに相対的に評価する必要があります。競合、成績の優れた他部署、過去の一時点など、何らかの比較対象が必要となります。
(5) 事実やデータを洗い出す
その上で、事実にあたりましょう。たまにこのプロセスをすっ飛ばして「感覚的に」表現されたバリューチェーンがありますが、ほとんど意味がありません。より具体的な行動につなげたいのであれば、事実やデータをベースに語らなければ迫力はありません。
ではデータとは何か、と言えば、具体的に取得できるのは「コスト」もしくは「時間」になるでしょう。具体的にその機能や行動に対して、どれくらいのコストがかかっているのか、どれくらいの時間がかかっているのか、ということを明らかにしておくということです。
(6) 示唆を考える
そして、最後にここまでの分析結果を踏まえて、示唆を考えます。具体的には課題点を明確にし、打つべき施策を考えていきます。
「進むべき方向性」なき分析は単に「効率化」のための分析
さて、ステップを踏んで考えてきましたが、実際にやってみるとそんなに簡単な話でないことに気付きます。特に、最後の示唆を出すところは非常に簡単に書きましたが、これを考えることこそがキモになるので、示唆を見出す際のポイントを2点ほどお伝えしたいと思います。
まず、事実やデータをベースに議論をする必要がある、ということを申し上げましたが、そこで集められるデータは、大抵はコストに関するデータが中心となります。そうなると、どうしても相対的にコストがかさんでいる部分に目が付き、そこを削減しようとか、外注(アウトソース)しよう、という議論になりがちです。もちろん、それは最終的にはそれでも正しい場合もあります。
ただ、安易に効率化の議論に入ってしまうのは危険です。なぜならば、そうやってコストをかけることがその企業にとって意味のあることかもしれないからです。
したがって、バリューチェーン分析だけで何かの意思決定をしようとするのではなく、「将来的に何を目指すのか?」「どんな戦い方をするのか?」「顧客にとってどんな価値提供をしていきたいのか?」といった進むべき方向性とセットで考えなくてはなりません。
当然ながら、目指すべき方向を定義すれば、「その方向に進むために重要な能力や資産」が自ずと明らかになります。顧客に対する柔軟な課題解決力で勝負しようとしている企業にとっては、何よりも現場最前線の営業担当やコンサルタントの提案力は必要不可欠になるわけで、短期的にそこに競合よりも時間やコストがかかっているからと言ったところで「コストがかかっているから集約して外出ししよう」とはならないわけです。
では、その進むべき方向性とはどうやって考えるべきなのでしょうか。それは、このバリューチェーン分析の前に、企業レベルで言えば第4回に説明した「3C分析」などのより広い視点での分析が必要になるでしょう。もしミクロレベルでの業務プロセスの話であれば、組織としてのビジョンや方針のすり合わせが必要になります。
バリューチェーン分析をシャープにしようとすればするほど、「現時点」の「目に見える」ものに頼ることになります。しかし、それだけに頼ると、「効率化」の意思決定しか促進されません。その危険性を意識して、まずは進むべき方向性を考えた上で示唆を見出すことが重要になるのです。
裏側に「流れるもの」を考察しないバリューチェーン分析は危険
そして、もう一つ指摘しておきたいのが、バリューチェーン分析においては「その裏側に流れるもの」を意識すべき、ということです。
バリューチェーン分析の本質は、事業活動という塊のものを細かく切り刻んで分析する、ということです。しかし、事業活動というのは、複雑な生命体のようなものであり、仮に課題が見つかったからと言ってそこだけ取りかえれば解決するというものではありません。当然その前後にも問題がある可能性もありますし、レゴブロックのように簡単に取り外したり組みかえたりできるものでもありません。その意思決定においては、バリューチェーン全体のつながりや流れのような「見えないもの」に対する考察が必要になります。
伊丹敬之氏は、『見えざる資産の戦略と論理』という書籍にて、「企業の中の仕事の場で人々が働いていると、その仕事の場ではふつう、3つのものが同時に流れている。それは、カネ、情報、感情である」と述べています。
「カネ」については分かりやすいでしょう。何らかのサービスや商品を考え、それを販売し、その結果として顧客からの対価(=カネ)が循環していく、ということはイメージしやすいと思います。
しかし、忘れてはならないのは、それと同時に、バリューチェーンの各機能間には「情報」や「感情」も循環しているということです。顧客とのコミュニケーションによって情報を得て、それを開発につなげ、製品が生まれる過程でその必要情報がまた下流に流れていく。そして、そうした仕事の過程で人々が喜びや悔しさなどの感情を持ちながら仕事をしている、ということです。リアルな人間集団だからこそ、情報や感情という目に見えないものの相互作用が起きており、それが経営というものを形作っているのです。
しかし、カネとは違い、情報や感情というのは、組織の壁に非常に弱い(=組織をまたぐと変質してしまう)、ということや、誰が伝えるかによって変化してしまう、という非常にやっかいな特性があります。つまり、バリューチェーンの上流から下流までが長い企業や各機能間の敷居が高い企業は、その流れが容易に行き詰まる、もしくは変質して伝わる、ということが頻繁に起きるのです。バリューチェーン各機能間の誤解や不和、不整合などは、こういった目詰まりによって起こります。それを前提に考えると、バリューチェーンを他社にアウトソースする、ということや、海外に持っていく、ということは、情報や感情の流れが切り離されやすい、ということです。したがって、もしそのような意思決定をするのであれば、具体的に誰が、もしくはどういう組織が情報の流れに責任を持ち、具体的にどのタイミングやどういう場でどうやって情報を流通させていくのか、ということを真剣に考えることとセットにすべきでしょう。
解説:金澤さんはどうすべきか?
さて、それではこれらの視点に基づき、金澤さんの提言内容を見ていきましょう。今回の金澤さんの提言は、「コスト削減のためのお客様窓口センターの外注」ということでした。
ただ、最初に考えたいのは、NB社のそもそもの戦略であり、それに必要な組織としての構えについてです。NB社は今までは限定された市場の中での付加価値商品によって一定の勝ちパターンを築いてきました。しかし、今後についてはどのような戦略を描いているのでしょうか。
「もっと顧客基盤を広げていきたいのか。それとも同じセグメントの中で今の規模を維持していきたいのか」
「もしそうだとしたら競合が入ってきている中でどう戦いたいのか」
そして、「そのためにはどういう組織の構えが必要であり、そのためにどういうバリューチェーンであるべきなのか」
そういった、「そもそもの戦い方」から「バリューチェーン」という流れでの設計がなされていないことに問題がありそうです。
このように上位概念不在の状態になると、各バリューチェーンの利害関係者それぞれが、「短期的」かつ「自分の組織の理屈で」意見を主張しはじめ、結局、本来の戦略とは無関係のところでバリューチェーンが定義される、ということが起きがちです。たとえば今回、金澤さんはお客様窓口センターの外注を提言していますが、ここに利害が絡む人、たとえばお客様窓口センター長は社員の雇用のことを考えて徹底的に反対するでしょう。こうなると、あるべき戦略とは関係なく、いかに組織のメンツを保つのか、という戦いに陥りがちです。そうならないためにも、もし金澤さんが本気でこの施策を検討するのであれば、もっと上流の「長期的なNB社の戦い方」、そして「そのために必要な組織としての構え」を真剣に考え、それをベースに議論を進めるべきでしょう。
その上で、今回の提案のアウトソーシングについては、もう少し全体像を見て検討を深める必要があるでしょう。
確かにお客様窓口センター自体は非効率になっているかもしれませんが、そもそもこの事業の価値提供の流れの全体像がどうなっており、本当にお客様窓口センターが最も重要な課題なのか、ということを考える必要があります。少なくとも、同事業のバリューチェーンの全体像を定義し、そして「お客様窓口センターの外注ありき」ではなく、全般的な視点でデータを下に検討する必要があるでしょう。
おそらく、金澤さんにとっては、アフターサービスというものが非常に目につく存在だったのだと思いますが、「目につかないからといって課題がない」、ということではありません。全体感のない局所的な提案は、「思い付き」と言われても仕方ないでしょう。
当然、アフターサービスの外注ということを仮説として持っておくことは否定しませんが、あくまでも仮説であり、仮説は検証してこそ意味があるのです。そのためにも、全社の機能の流れをまずは定義し、それぞれの機能において比較対象とともにコストなど具体的なデータを揃えて検証する必要があったのです。
以上の通り、バリューチェーン分析について整理をしてきました。本文中にも書いたとおり、バリューチェーン分析は、単独で使うのではなく、他の分析と組み合わせることによってその効果を発揮するものです。過去に紹介した3C分析や5つの力分析などをうまく組み合わせながら、活用してみてください。
また、必ずしも企業レベルに限らずとも、身近な身の回りの業務でもその縮小版としての活用が可能ですので、まずは自分に出来る範囲で価値の「流れ」を整理してみることをお薦めします。
■参考文献:
〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略
経営戦略の論理
見えざる資産の戦略と論理
BCG戦略コンセプト
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