配当政策(Dividendpolicy)
企業が配当を株主に還元する方針。
配当政策で重要なポイントとして、必ずしも配当が多いほど株主のためになるとは限らないという点がある。企業の総価値から負債を引いたものが株主の持ち分だという前提に立てば、配当として支払われずに企業に残る内部留保もまた株主のものである。配当として直ちに現金を株主に還元するのがいいのか、内部留保として将来の投資に回し、株価を上げることを狙うのがいいのかは、簡単に判断できるものではない。
実際に、優良企業であっても、創業期に無配の企業は少なくない。たとえば、世界最大のソフトウエアメーカーのマイクロソフト社は1975年の創業以来、2003年まで一貫して無配当政策を維持していた。この間、同社はコンピュータ市場の発達にも支えられ目覚ましい成長を遂げ、投資機会にも恵まれた。同社の株価は事業の成長に伴って急上昇し、キャピタル・ゲインだけで株主を満足させるに十分であったのだ。
ちなみに、完全市場(税金がなく、また、市場参加者が瞬時に同じ情報を共有し、ノーコストで自由に資金を移動でき、市場の不均衡が瞬時に解消されるという理想的な市場)のもとでは、株主にいくら配当するかという配当政策は株主にとっての企業価値、すなわち株価に影響を与えないことが証明されている。これを、この理論の提唱者であるF・モジリアニとM・ミラーの頭文字をとってMM理論と言う。
しかし、実際の世界では、税金や諸コストの存在、あるいはシグナリング効果などから、配当政策は株価に影響を与える。したがって、経営者はこれらの問題を総合的に考慮した上で配当政策を決定する必要がある。
なお、当期利益のうち、配当の支払いに当てられた比率を配当性向と呼ぶ。毎年の配当性向をほぼ一定のレンジに収めるようにしている企業も少なくない。
次回は「シグナリング効果」を取り上げます。
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