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ハーバード・ビジネススクール生は全員読んでいる ―『人の心を一瞬でつかむ方法』

投稿日:2015/10/03更新日:2020/01/25

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本書を手に取ったきっかけは、表紙帯の「ハーバード・ビジネススクールの必読書」のキャッチコピーと、ソフトパワー論でもお馴染みのジョセフ・ナイ教授の推薦があったことだ。リーダー輩出機関として名高いハーバード・ビジネススクールで、皆が読む心理学の書籍を読まないわけにはいかない。今回はその内容をご紹介する。

本書の「はじめに」にこんなフレーズがある。

「入ってきただけで部屋が明るくなるのはどのような人なのか?」
「人を惹きつける人の秘密は何なのか?」
「周囲の人の心を確実につかむ方法とはどんなものか?」

ハーバードでも教鞭をとるスピーチコンサルタントの著者らが調査をした結果、これらは大きく2つの要素によって決まるという。それは「強さ」と「温かさ」である。ここでいう「強さ」とは、強引さなどではなく、能力の高さや目標達成に向けた意志の力を指す。能力はツールであり、意志の力は動力とも言える。こうした人は周囲の尊敬を集めるという。

一方、温かさは文字通り、この人と一緒にいたいと思わせる、優しさ、親近感を指す。より具体的には、温かさは共感、親しみ、愛の3つからなる。これらの要素が強い人の周りには、実際に人が集まる。

本書の主な内容は、強さと温かさという、トレードオフになりがちな2つの要素をいかにバランス良く高く持つか、そしていかに他人に認識してもらうかということに関するテクニックを紹介するもので、特に後者に重点を置いている。

こう書くと表層的なテクニック論の書籍かと思われる方もいるかもしれないが、こうしたテクニックを本質的ではないと低く見るのは危険と言えよう。なぜなら、人間の脳は、爬虫類の脳にも備わっているような、より原始的な部分で物事を判断することが案外多いからだ。事実、我々は第一印象で人を判断しがちだし、相手が話している内容よりもビジュアル(見た目)やボーカル(声のトーンなど)の要素に影響されやすい(いわゆるメラビアンの法則)。もう1つの理由として、「型」はいつか「中身」を変えるという要素がある。まず型から入るというのは1つの方法なのだ。

ビジネスパーソンにとって、印象マネジメントを意識している人間と、そうでない人間の最終的なパフォーマンスの差は大きいことを忘れてはならない。どれだけ中身がしっかりしていても、「部屋に入った瞬間に悪印象を与える人間」はやはりリーダー失格である。自分の強さと温かさをセルフチェックした上で、強さと温かさの印象マネジメントをしっかり行うことが大切だ。「中身の良さはおのずと伝わるはず」という考え方は、一見謙虚なようで傲慢な考え方とも言えるのである。

さて、本書によれば、印象のマネジメントで重要なのは、ハロー効果(あることが優れていると、他も優れていると認識しがち)と、シーソー効果(一方が上がれば一方が下がる)の2つを理解した上で、それを効果的に用いることである。温かさは通常はシーソー効果が働いて強さとトレードオフになるが、うまく立ち居振る舞えば、究極の温かさが強さとしても認識されるようになるし、逆に、究極の強さが温かさとして認知されることもあるという。そのバランスを適切にとるのは容易なことではないが、そうしたテクニックも紹介されている。

さらに本書では、2つの要素を認知してもらうより具体的な方法論として、表情やビジュアルの作り方、ボディランゲージ、身振り手振り、笑顔の作り方、アイコンタクトの仕方、発声、話し方、ファッション、レトリック(修辞法)などについて、実践やサーベイに基づきながらその技を提示している。話す内容については、ストーリーを多用するとよいというのも、近年の研究と整合していて示唆に富む。

本書で紹介しているさまざまな方法論の中でも特に役に立つのは、第4章で紹介している「相手の世界の輪に入る」方法論だろう。これはテクニック論にとどまらず、自身の中身そのものを変えることにもつながりやすい。詳細は本書をお読みいただきたいが、「世界は『内』と『外』に二分されており、輪の内側に入らない限り、誰もあなたの話を聞いてくれない」という指摘は心しておきたいものである。

また、女性リーダーが増える現代において、女性向けのアドバイスが充実しているのも本書の特徴だ(第2章)。女性は、実態はどうあれ、特に「強さ」を認知してもらうのは容易ではない。温かさを損ねずに強さを演出する方法は、日本の女性リーダーにも参考になるはずだ。

印象マネジメントを扱った書籍は他にもあるが、世界のリーダーが学ぶ方法論を知るためにも、読んでおきたい1冊である。シンプルで分かりやすい内容なので、1度読んで分かった気になるのではなく、2度、3度と読み返し、出来るところから実践されることをお勧めする。

人の心を一瞬でつかむ方法―人を惹きつけて離さない「強さ」と「温かさ」の心理学
ジョン・ネフィンジャー、マシュー・コフート著
1,500円(税込1,620円)

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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