ケースを使って学習する方法には、「ケースメソッド」と「ケーススタディ」の2つがあります。「ケーススタディ」とは、企業の成功事例や失敗事例を後日談的に分析し、成功のポイントや失敗のポイントを明らかにしていくものです。
一方、私たちがグロービスで取り入れている「ケースメソッド」とは、成功事例か失敗事例に関わらず、「あなたがその時の当事者であればどのような意思決定をするのか」といった意思決定を問うものです。「右か左のどちらへ行きますか?」という問いがあり、それに対して当事者の立場として答えを出すことが求められるのです。当事者の立場になりきって、その時に何を恐れ、どんな感情を持っていたのか、ということも含めて、リアリティを持って考え抜くのです。リーダーとして企業や組織を変えていくための意思決定能力を育てるために、私たちは「ケーススタディ」ではなく、「ケースメソッド」を採用しています。
スポーツ観戦などに置き換えて考えてみると…?
私はスポーツ観戦が大好きなのですが、観客席からはいろいろなことが見えます。「なんで、あいつはあんなところであんなパスをするんだ!」とか「あいつは全然走っていない!」「あいつは失格だ!」などと、好き勝手なことを言えます。
しかし、「ケースメソッド」の考え方では、実際に自分がフィールドに降りてみて、当事者としてどのような視界で物事を見ているのか、ということを想像しながら、自分だったらどのようにパスをしただろうかといった点を、リアリティを持って考えるのです。例えば、監督から叱責されてガチガチになっていた試合で、前半3分に相手チームから背中に蹴りを入れられて恐怖心を抱いたとします。自分がもしその立場だったら、どのようなプレーを選択するのかということを当事者としてシミュレーションするのです。
たとえば、ある企業が何か不祥事を起こして、社長が記者会見に臨んだものの、その説明がとても支離滅裂だったとしましょう。そんなニュースを観ると、私たちは野次まがいの叱責を行います。しかし、「ケースメソッド」的なアプローチは、自分が記者会見の場でフラッシュを浴びながらマイクの前に立っていた場面を、リアリティを持って想像し、「自分だったらどんな言葉を具体的に述べることができるだろうか」と考えていくわけです。
あるいは、10人の社員がいる中で、9人が喜び、1人が泣いてしまうような意思決定をしなくてはならない場面があったとしましょう。その時に、あなたはこの泣いている社員に対してどのように対応できるでしょうか。ケースメソッドでは、「私ならその人にこのように言います」といったことを考え抜きます。
こうした疑似体験を繰り返すことにより、様々な事象に対して「当事者」の視点で物事を捉えることができるようになるのです。後に、それに似たような場面に遭遇した際、意思決定の大きな助けになるでしょう。
※本記事は、FM FUKUOKAの「BBIQモーニングビジネススクール」で放送された内容を、GLOBIS知見録用に再構成したものです。音声ファイルはこちら >>
イラスト:荒木博行