リーダーシップに関する名著に、ハーバード・ケネディ・スクールのハイフェッツ教授のクラスを描いた『リーダーシップは教えられる』という本があります。その中の一節で比喩として使われている「ダンスフロアとバルコニー」という言葉について考えてみましょう。
ダンスフロアというのは、最前線で何かに熱中して取り組んでいる状態のことを指しています。そして、バルコニーは、そのダンスフロアで踊っている人の様子が眺められる高い場所です。我々は日々ダンスフロアで必死に踊っていることが多いのですが、リーダーとなるためには時としてバルコニーに立たなくてはならない、と喩えたのです。バルコニーに立った瞬間に、これまで自分が踊っていたダンスフロアの状況を客観的、俯瞰的に捉えることができ、全体の構造を把握しやすくなります。私たちは、現場寄りのダンスフロアの視点と、より俯瞰的なバルコニーの視点の双方を、絶えず持っておく必要があるのです。
しかし、日々ダンスフロアで踊っていると、バルコニーに立つことの難しさを痛感するのです。ダンスフロアには強力な引力があります。なかなか離れることができません。そんな状態でバルコニーに上がるためには、自分なりのバルコニーをあらかじめいくつか作っておくのです。プレッシャーがかかっていない冷静な時には、「“幽体離脱”が必要だよね」とか「俯瞰することが大事だよね」などと語ることはできますが、難しい意思決定の瞬間や、当事者としてど真ん中に立っている瞬間には、バルコニーの視点を持つことは容易ではありません。
バルコニーに立つためには具体的に何をしたらいい?
それでは、どのようにしてバルコニーに立てばよいのでしょうか。簡単に言えば、脳内にそういう回路をしっかりと作っておく、ということです。ある種の擬似的なプレッシャー下に身を置いて、バルコニーに立つことを繰り返す、つまり自社や自分の立ち位置を俯瞰的に分析することを重ねることで、俯瞰的な思考回路をどんどん強くしていくのです。
サッカーで言えば、「こういう時はこういうポジションを取れ」「こういう場合にはここを狙え」といった理論があります。しかし、ロスタイムのうちにシュートを決めなければ負けてしまうという切羽詰まった状況では、実際にその通りに動くことは難しい。ですから、常日頃からプレッシャーをかけた練習を重ねて、自分の体がどんな状態でも俯瞰的な視点を持って動けるようにすることが肝要なのです。どのスポーツでも同じですが、奇跡のプレーというのは、その訓練を何度も何度も繰り返したからこそ、その瞬間に出てくるものなのです。
以上を踏まえれば、バルコニーに立つためには本を読むだけでは不十分で、プレッシャーのある環境下で訓練を積むことが理想です。ビジネススクールではまさにそうした擬似的な修羅場を設定して授業を行い、どのような場合においても自分のバルコニーに立ち戻れるように訓練を重ねているのです。
※本記事は、FM FUKUOKAの「BBIQモーニングビジネススクール」で放送された内容を、GLOBIS知見録用に再構成したものです。 音声ファイルはこちら >>
イラスト:荒木博行
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