一見関係なさそうに見える「イノベーション」と「クリティカルシンキング」、実は両者は密接に関係しています。たまに、「論理思考を鍛えると、革新的なビジネスを考える上で妨げになるのではないか」という話を聞くことがあるのですが、実際にはそんなことはありません。このことをお伝えするために、クリティカルシンキングについて、2つのキーワードを軸に説明します。
キーワードその1: イシューに常に立ち戻る
イシューとは、「今、我々が考えるべき“そもそも論”」のことです。我々は往々にして、そもそもの目的や考えるべきことを忘れて、議論に熱中することがあります。何かの意思決定をするにも、様々な人間関係や部署間の利害関係に邪魔をされて、当初の目的を果たせないことがあります。そうならないように、頭の片隅でイシューを絶えず押さえておくことが大切です。
私は、「イノベーター」と言われる人とお会いする機会が多いのですが、彼らは細部のことにはあまりこだわらず、本質的なポイントを意識し、そこを議論の中心に持ってきます。ビジネスの現場では、プロジェクトが予定通りに進まなかったり、お客さんからクレームを受けたり、魅力的な提案が飛び込んできたりと、いろいろな細かい事象に心を奪われがちです。それらに対して逐一対応するのではなく、そもそも我々のビジネスの目的は何だったのかを考え直すのです。「イシューに常に立ち戻る」、ということは、クリティカルシンキングの最重要事項として徹底されることですが、これは、まさにイノベーターの日常の行動原理の基軸なのです。
キーワードその2: 当たり前を疑う
私たちは、眼前の前提を当然のものとしてロジックを組み立てがちです。『ビジネスに役立つ「演繹法」と「帰納法」どう使い分ける?』で、ルールに基づいてロジックを組み立てるという演繹法について解説しましたが、演繹法における「ルール」を、今回話している「前提」と置き換えていいでしょう。「前提」自体が本当なのかどうか、絶えず疑ってみましょう。これも、イノベーターに共通する思考特性の1つです。すなわち、誰もが疑わないようなところにメスを入れるのです。
例えば、「お役所がこういうことをやれと言っている」との報告を受けた際に、「具体的に誰が言っているの?本当にそう聞いたの?きちんと交渉したの?」と深く突っ込んでいき、最終的には「これこれの点について徹底的に交渉せよ」と具体的に指示を出すのです。通常であれば、ここまで考えていくことは少ないでしょう。しかしこのように疑っていくことで、第3の方法が生まれてきたり、これまでとは全く異なる景色が見えたりして、イノベーションに繋がっていくのです。ビジネスを考える際には、これまで考えたこともないような基本的、根本的な部分まで立ち戻っていくことが、重要です。
前提を疑う人がいない環境というのは恐ろしく感じませんか?組織には新しい血を入れた方が良いと言われるのは、この点に繋がるものです。新しい人は、素朴な疑問を投げかけてきます。転職者でも新卒採用の方でも異業種の方でも良いのですが、組織の前提を疑う人と接触しやすい環境を意識的に作ることが大切です。
※本記事は、FM FUKUOKAの「BBIQモーニングビジネススクール」で放送された内容を、GLOBIS知見録用に再構成したものです。音声ファイルはこちら >>
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