グロービス経営大学院でよく使われる言葉の1つに、「ビッグワード(Big Word)」があります。非常に抽象的であり、いろいろな解釈を生んでしまうような言葉、と定義しています。ビッグワードばかりを使っていると、ビジネス上、様々なリスクが生じます。私たちが論理思考について教える際には、このことについて、必ず皆さんに注意を促しています。
プレゼンテーションなどを聞いていると、朗々と話していて聞こえは良いものの、実のところ何を言っているのかよく分からない、ということがしばしばあります。例えば、部の朝会で、部長が「我が社のサービス価値を上げるために、精神誠意頑張りましょう」と話しているとします。皆それなりにしっかり聞いていますが、彼らに対して「今部長が言ったことって具体的に何をすることだと思った?」と訊ねてみると、十人十色の意見が出てきてしまうのです。
こういう状態になってしまうのは、部長が使っている言葉がビッグワードだから、ということに他なりません。例えば「価値を向上させる」というのは、一般的には極めて抽象度が高く、いろいろな解釈が可能な言葉です。このような抽象度が高い言葉を使うときは、その場にいる人の間でどれくらいの認識が揃っているのかということに注意をしなくてはなりません。もし使うのであれば、この語が意味するところを別の言葉で言い換えたり、具体例を添えて話す必要があります。
ビッグワードが横行すると、誤解や勘違いの連鎖が起きる
以前、私が営業をしていたときに、某企業の人事部長から、「うちの社員にはビジョンを描けない者が多いから、トレーニングをしてくれないか」と言われたことがありました。その隣にいた人事担当の方もふんふんと頷いて、「そうなんです。組織の方向性が見えないという話をよく聞くんですよ」などと話されました。ここでいうビッグワードは、「ビジョンを描く」です。聞き手がなんとなく分かったことになる言葉ですが、少し考えると、この言葉にはいろいろな解釈が存在することに気づきます。中長期的な組織の方向性を見いだせないということかもしれませんし、具体的に組織を動かす戦略が分からないということかもしれません。また、具体的にいつまでに何をすべきというアクションプランを練ることができない、ということかもしれません。そもそも、人事部長と、人事部長の話を受けて横で頷いていた人事担当者との間でさえも、全く違うことを考えている可能性があるのです。そうした状況で、私がリーダーシップ研修の提案書を作って再訪したとしても、まったく見当外れのものになりかねません。
以上に見たように、ここかしこに地雷が隠れているのです。会社内でビッグワードの危険性が十分に認識されなければ、誤解や勘違いがますます拡大し、新たな悲劇の種が生まれていくことになるでしょう。組織内でビッグワードが横行している会社は、気をつけなければなりません。
ただし、あえてビッグワードを用いることで、部下や後輩に思考トレーニングをさせることもあります。例えば、「当社のサービスの付加価値をどうしたら向上できるか考えてみよ」という指示を出して、部下がどのくらいの目線で「付加価値」ということを捉えているのか、はたまた「向上」ということをどれくらいのレベル感に置いているのか、その視点を確かめるということもあって良いでしょう。このように意図を持って使う分には問題ありませんが、ビッグワードは往々にして無意識に使われているのです。
ビッグワードには、形容詞や副詞にも含まれます。たとえば「早めに対処しておけ」の「早めに」は、どのくらいの時間を指すのかについて解釈がぶれる可能性は高いでしょう。動詞では、「検討する」「対処する」といった言葉は危険です。横文字の経営用語も同様です。「シナジーを意識して早めに対処しておけ」などと言われたら、もう目も当てられませんね。
皆さんが上司の立場である場合、皆さん自身がビッグワードで語ってしまうと、部下の人たちはその言葉の意味することが理解できず、言葉の解釈に無駄な時間を費やすことになります。そしてその曖昧な情報がさらに下の階層まで伝わって、悲劇が再生産されることになりかねません。上司の不用意な指示が、現場の生産性を落とすことにつながってしまうのです。上の立場であるほど、言葉の重要さを認識する必要があります。話す前に自分でその意味することを確認するなど、日頃からビッグワードに対する警戒感度を高めておくことが重要です。
※本記事は、FM FUKUOKAの「BBIQモーニングビジネススクール」で放送された内容を、GLOBIS知見録用に再構成したものです。
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