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全米一のVCはこうして生まれた ―『HARD THINGS』

投稿日:2015/05/16更新日:2019/04/09

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ビジネスリーダーにぜひ読んでほしい1冊を紹介するこのコーナー。第7回はスタートアップ投資を行うベンチャー・キャピタル(VC)としては7億ドル弱と全米一の規模を誇る(2013年現在)アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者、ベン・ホロウィッツの半生記とそこから得た教訓を記した『HARD THINGS』を取り上げる。ベンチャーに関わる人間だけではなく、あらゆるビジネスパーソンにとってのヒントが満載だ。

アンドリーセン・ホロウィッツは2009年に設立された、アーリーステージ投資をメインとする新興のベンチャーキャピタルだ。新興とはいえ、Facebook、Twitter、Skypeなどに矢継ぎ早に投資を行い、瞬く間に全米を代表するスタートアップVCへと成長している。アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者は、ネットスケープの創立者としてIT業界の隆盛をもたらした立役者でもあるマーク・アンドリーセンと、本書の著者であるベン・ホロウィッツの2人である。

マーク・アンドリーセンが23歳にして日本人にもおなじみのネットスケープをIPOして億万長者になったのに比較すると、ベン・ホロウィッツがCEOを務めたラウドクラウドやオプスウェアという会社を知っている日本人はほとんどいないだろう。アンドリーセンのような誰もが知るようなスターではなかったホロウィッツとは何者なのか、なぜこのようなVCを立ち上げることができたのか知りたいと思う人間は多いはずだ。本書は、その答えをまとめたものとも言える1冊である。

本書は、大きく2つのパート、要素から成っている。1つはホロウィッツ自身のIT企業のCEOとしての苦闘の歴史、そしてもう1つは2つの企業を率いる中で得た教訓だ。企業経営者ものの書籍に書かれている教訓は往々にして汎用性が低いものも少なくないが、ホロウィッツの提示する教訓は非常に体系化されており、汎用性が高い。その理由については後で述べよう。

さて、まず本書の前半の多くを占める彼のITベンチャーCEOとしての半生記であるが、これは「凄まじい」の一言に尽きる。これでもか、これでもかというくらいに無理難題が降りかかり、そのたびにホロウィッツは苦渋の決断を迫られ、七転八倒しながらその難局を乗り越えていくのである。AMAZONの書籍紹介から引用させていただくと以下のような感じだ。

「ドットコム不況が襲い、顧客が次々に倒産し、資金がショート。打開策を見つけてIPOを目指すも、 投資家へのロードショウ中には妻の呼吸が止まる。(中略)最大顧客の倒産、売上9割を占める顧客が解約を言い出す、3度にわたって社員レイオフに踏み切らざるを得ない状況に・・・」

それでも彼は、最終的には2007年に当時CEOを務めていたオプスウェアをHPに16億ドルで売却することに成功する。苦難の道こそ歩んだものの、そしてAMAZONのジェフ・ベゾスやFacebookのマーク・ザッカーバーグほどの派手さはないものの、最終的にはベンチャー起業家として成功を収めたのである。

では、世界中のだれもがその名を知るような大天才でもなく、常に時の運に恵まれたわけではないホロウィッツが成功できた理由とは何なのか。実際にはさまざまな要素があるが、あえて絞り込むとすれば、それは「逃げない強い心」と「学ぶ力」になるのではないだろうか。

1つ目の「逃げない強い心」は、先の記述からも明らかだ。もともと起業家は自信家、楽観主義者が多いと思うが、それでも彼と同じ状況に立たされてそれを乗り切れる人間は多くはないはずだ。ギリギリの立場に立たされても、諦めずに粘ってベストの方策を考え抜き、強いメンタルでそれを実行し続けたところに彼の凄味がある。強い経営者とは結局、何事に関しても逃げない経営者なのだ。「長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない」という彼の言葉は、粘りぬいて成功を収めた彼の言葉だからこそ響くものがある。

2つ目の「学ぶ力」は、本書のもう1つの要素でもあり、後半の大部分を占める体系化された教訓にもつながっている。彼はしばしば、アンディ・グローブの『インテル経営の秘密』やジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー2』などを引いて物事を説明する。自分の経験という狭い範囲でものを考えるのではなく、自分の経験は経験としてしっかり振り返った上で、名著に示されたセオリーをしっかり咀嚼し、それを実務に応用しながらさらに学びを深めているのである。

さらに言えば、彼の提示している教訓の大部分が組織や人のマネジメントに関わるものであるのも興味深い。営業組織に関する話も多い。「スリリングな使命こそが大事。それはあらゆる個人的インセンティブを脇に押しやってしまう」「ハイテク企業での不正はセールス部門が業績を無理に上げようとして起こることが多い。だからこそ自分のことではなくまず会社の成功を考える人間を責任者にすべし」といった提言は説得力がある。彼の携わってきたIT業界は特殊な業界かもしれないが、それを越えた普遍的なマネジメントに関するこうした洞察は、あらゆるビジネスパーソンの参考になるはずだ。もちろんそれらは、アンドリーセン・ホロウィッツの経営や投資先へのサポートにも生かされている。

起業家に限らず、大きな事を成し遂げたいと考える人間は、必ず困難に直面するはずだ。それをどのように乗り越えていくヒントを予め得られるという意味でも、若いビジネスリーダー候補にお勧めの1冊だ。

『HARD THNGS』
ベン・ホロウィッツ著、滑川海彦、高橋信夫翻訳
1,800円(税込1,944円)

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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