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ファシリテーションは「合気道」

投稿日:2013/06/18更新日:2023/01/11

さて、長らく続けてきた「変革ファシリテーション道場」も今回で終わりです。この連載を通じ、ファシリテーションの大切さ、奥深さ、面白さを皆さんに感じていただけたでしょうか?

(前回「感情に働きかける(3)」はこちら

今回は、ファシリテーションという営み全体に関して、私が最も大事だと思う点を述べたいと思います。

ファシリテーションの二つの道。「どちらの道も行ける」ように備える

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議論の出発点と到達点を具体的に定義し、広く、深く論点を洗い出す「仕込み」を行なうこと。そして議論の場で論点を適切な状態に保ちつつ、参加者の思考と発言を質問で導く「さばき」の技を身につけることで、ファシリテーターは「議論をコントロール」することができるようになります。

ファシリテーターはこの技をどのように使い、どのような議論の場をつくるべきなのでしょうか?そこには大きく二つの道が存在します。

一つは、「しっかりコントロールする」道です。たとえば、適切な結論に至るために必要な論点を段階的にファシリテーターが提示し、その論点から外れないように発言と議論の方向性をコントロールしていくイメージです。当然、最短の討議時間で、適切な結論に到達する確率が高くなります。

しかし、このアプローチで参加者は本当に納得感や達成感を感じることができるでしょうか? ファシリテーターのコントロールが強く、そのことを参加者が感じると、議論の場自体を窮屈に感じたり、時には「ファシリテーターに仕切られる」ことに反発を覚えることもあります。

また、反発が無いとしても問題が無いわけではありません。「ファシリテーターに仕切られる」ことに慣れてしまうと、参加者は自ら主体的に適切な議論の流れになるように考え、発言し、混乱や停滞を乗り越える経験をできなくなります。結果「良い議論の場をつくるのは自分達の責務だ」という意識、もしくはそのために必要な議論のスキルを高める機会を失います。そうなると、「ファシリテーターがいれば生産的な議論ができるが、いなくなると話が進まない」といった状態になりかねません。

そこで取り得るもう一つの道は、ファシリテーターが「極力コントロールをしない」道です。議論の場におけるファシリテーターの介入は最低限にとどめ、可能な限り参加者の自主性に任せます。このやり方のメリットは、参加者の納得感が高いこと、さらにファシリテーターの予測を超えた知恵が生まれる可能性があること。結果として、まさに自分達で結論を導いたのだという認識が当事者意識を高め、決定事項が確実に実行される確率が高まります。

しかし、こちらも良いことばかりではありません。こうしたプロセスを踏むには「しっかりコントロールする」のに比べて多くの時間がかかります。そして一歩間違うと議論が停滞、混乱したり、対立が激化し議論の場自体が崩壊するリスクもあります。

さて、皆さんはどちらの道をとりたい、とるべきだと思いますか?

人びとの知恵や意欲を引き出す先にあるファシリテーションの究極の目的とは

実はこの問いに唯一絶対の解があるわけではありません。むしろ重要なのは、この二つの道があることを認識し、状況に応じ、どちらも選択・対応できるようにしておくことです。

その際踏まえるべき状況は、大きく二つあります。一つは「時間的緊急度」です。議論に時間をかける余裕が無く、適切な結論を素早く導くことが最優先される場合、強いコントロールによってそれを実現すべきでしょう。もう一つは、議論の場に参加するメンバーの「議論に参加し、生産的な議論を行うことに対する習熟度の高低」です。習熟度、具体的には良い議論とはどういうものか理解・認識できているか、そして実際に適切な議論ができる思考コミュニケーションのスキルを持っているかです。これらが高ければ、ファシリテーターのコントロール度合いを下げても一定の成果が期待できます。一方でスキルが低い場合はファシリテーターのコントロールが必要です。

注意深い方は気づかれたと思いますが、ここには一見矛盾する状況があります。議論のスキルが低い場合はコントロールが必要だが、コントロールを強くするとメンバーのスキルが高まらない、という矛盾です。この矛盾をどう考え、対応していくべきなのでしょうか?

これは「ファシリテーション」という営み自体の目的をどこに置くか?に係る重要な問いです。もし私たちがファシリテーションの目的を「人びとの知恵と意欲を引き出し、集団としての成果を最大化する」ことに置くのであれば、ファシリテーターのリード・コントロールによって最短距離で最適な結論が導くことは通過点であって、ゴールではなくなります。本当に目指すべきゴールは、ファシリテーターのリード、コントロールが無くとも、参加者自らが生産的な議論の場を創造し、実りある議論ができるようになっていくことです。つまり、「ファシリテーターが不要になる状態こそがファシリテーターの最終目的」と言ってもよいでしょう。

では、そもそもファシリテーターは何のために存在し、また我々は多大な時間をかけ「仕込み」をし、「さばき」の技を磨くのでしょうか? それは、人びとの知恵と可能性を最大限引き出し、集団を成長させるためです。人が適切な方向に成長するうえでは、「自分もあのようになりたい」という優れたモデルの存在と、成長過程で自力では乗り越えられない困難な状態に手を差しのべ、あるべき方向に導くサポーターが必要です。ファシリテーターの本分は、議論の場における優れたモデル、そしてサポーターであることです。

そのような存在になるには、論理的、構造的な思考力、優れたコミュニケーションスキルといった「力」が必要ですが、その力を「振りかざす」べきではありません。むしろ普段はその力をできるだけ直接使わないようにする。しかし参加者が自分達ではどうしても乗り越えられない状況にあるときは、いつでもその力を使って状況を打開できるように準備し、技を磨いておくべきです。

さらに「力」以上に重要なことは、ファシリテーターが持つ人に対する基本的態度、価値観です。人の可能性を信じること、自分を無にしてでも集団の成果とメンバーの成長を実現しようという使命感、そうした価値観を併せ持ってこそ、その力が最大限に生かされるのです。

このように考えると、「ファシリテーション」は合気道に似ています。自分の力で押し倒すのではなく、人の力を活かし、「氣」の流れ(人知を超えたエネルギーの自然な流れ)を用いて、自然に「投げる」。内には非常に強い核を持ち重心は極めて安定しているが、決して力まず、どんな状況にもしなやかに対応できる。そんな存在をイメージすると、「ファシリテーション」の本質が見えてくるのではないでしょうか。

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シリーズ「変革ファシリテーション道場」はこちらから

連載がベースになって書籍も発売されました。

ファシリテーションの教科書: 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ
著者:グロービス 執筆:吉田 素文 発行日:2014/10/31 価格:2,640円 発行元:東洋経済新報社

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