上海に到着。ちょっと蒸し暑い。空港に友人のドライバーが迎えに来て、彼の自宅に直行した。彼とは、ハーバードの同窓で一緒の時期に卒業生ボード(理事)を務めたことで親しくなった。僕は日本代表で、彼は中国代表の立場だった。
彼には子どもが4人いる。7歳から15歳。男3人、女1人だ。彼ら家族は、4年ほど前に日本に来て、我が家に遊びに来たこともあった。子供達は、中国語と英語のバイリンガルだ。長男は米国の全寮制の学校にいる。次男、三男、そして長女と一緒に食卓を囲み、中国料理を食べながら教育談義に花が咲いた。日中関係や政治的な話は一切出なかったので、僕からも持ち出さなかった。
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友人宅での夕食会を終え、車でホテルまで送ってもらった。その夜は、早めに就寝した。
上海の朝。快晴。窓の外に青空が広がる。高層ビルの合間に、低層の集合住宅がひしめいている。一通りネット上でニュースに目を通し、一泳ぎだ。6月23日にKIBOWでトライアスロンに参加する予定。僕は、スイムのみを担当する。当日まであと一カ月を切った、初めて1500Mを泳いだ。
まずは、グロービスのセミナー会場に向かった。グロービスの上海スタッフに挨拶をして、会場の確認を行った。
そして、今回のゲスト・スピーカーである「第一財経」(中国で影響力の大きい政治経済誌)の創業者の秦朔さんとランチ会食をした。最初は通訳を入れて会話をしたが、途中から英語で直接話をした。中国の経済状況や課題、日中関係など多岐にわたる質問に丁寧に答えてもらった。とても洞察力があり、日本のことを良く知っている方だ。
セミナー「中国企業のグローバル化、日本企業の中国ビジネスへの提言」が13時よりスタートした。僕のスピーチに続き、質疑・応答、休憩時間を経て、「第一財経」の創業者の秦さんのスピーチが始まった。スピーチ後には、僕との対談を予定している。セミナーは、13時から16時までの長丁場だ。会場は、100人以上が集っている。聴衆は、日本人2割、中国人8割だ。秦さんが喋り始めた。
「フォーチュン500のうち、61社が中国企業。ブランド・トップ100社のうち、13社が中国企業。だが、バイドゥ等を除いた10社は、殆ど「中国」を冠する。トップ企業は、政府系だ。もっと中国の民間企業が頑張る必要がある。
中国企業の国際化のためには、バリュー・チェーンを改善する必要がある。設計、開発、製造、調達、マーケティング、営業等全てにおいて、国際化を促進する必要がある。政府も、中国企業の国際化を後押ししている。対外開放のレベルを上げて行く必要がある。中国企業の国際化は避けられない。では、どのようにして国際化するのか? 経営と人材の国際化が必要だ。
失敗事例1) 2003年にTCLが仏トムソンを買ったこと。失敗の教訓。世界トップ3に入ろうと焦り、買収前のリサーチを怠った。フランスの労働者政策への理解が足りなかった。失敗事例2)中国自動車企業がインドに投資をしたこと。課題は採用だ。優秀なインド人は、欧米企業志向だ。現地で良い人材を採用できない。タタ自動車との競争への認識も甘かった。失敗事例3) テレビメーカーの長虹の米国企業の買収。他にもアジアス社の買収等失敗事例がある。何故失敗なのか? 急ぎすぎて、買収のリスクを十分に認識していなかった。
一方では、ハイアール社やファーウェイ社などの成功事例もある。ファーウェイは、海外の売り上げは国内の倍以上ある。ハイアールやファーウェイは、社内の能力を一歩一歩高めて、戦略的提携を積み重ねた。他にも数多くの成功事例がある。基本的には、社内の能力向上に注力している会社が成功事例に多い。
あと成功事例のもう一つのパターンは、海外企業やブランド買収を中国市場で勝つために使う方法だ。結局は、経営チームが重要だ。イノベーションや管理能力。戦略立案、ブランド、採用、予算、財務、お客様サービスなどが世界次元かどうかが重要になる。
日系企業は当初は投資が多かったが、今は落ち込んでいる。自動車販売もシェアが23%から10%まで落ち込み、今は15%まで回復した。日中関係の悪化が大きな要因ではあるが、他にもできることがある。もっと現地化して、中国に合った製品を投入する必要がある。
サムスンは、優秀な人材を送り込んでいる。日本企業の社員は日本酒を飲んでいるが、サムスンは老酒を飲んでいる。殆どの韓国人は中国語を喋る。日本人も多くの人が中国語を喋るが、コミットメントと意欲が違う。日本企業は、その点ではちょっと保守的だ」
とても示唆に富む話だ。秦さんの話を聞いてわかったことは、結局は、日本企業であろうと中国企業であろうと基本は一緒だということ。地道に一歩一歩人材の能力を高め、全てのバリュー・チェーンでの力を世界次元に引き上げて行く努力が必要、ということだ。
秦さんとの対談が始まった。「中国は、1840年時点では世界のGDPの半分程度を占める大国だった。1895年にGDPで二位に転落した。その時の中国は、大きかったが強かったとは言えない。今、中国はかつての経済的地位を取り戻しつつあり、2020年には米国を抜いて世界一となるだろう。だが大きいからといって、強いとは限らない。
CCTVの親しい記者が米国、四川、タヒチ等の世界各国の被災地をまわった。日本の東北だけが、全く違って、とても整然としていた。大和民族の底力に、強い衝撃を受けたと言う。しかしネット上では、反日の書き込みが多い。『日本と中国は戦争に入る!』と叫ぶ人もいる。日本からもう学ぶものはなく、米国から学べばよい、と言う空気が支配的だ。
日本は、成長する中国市場を失うと大きな損失となる。だが、中国は日本を失うと、もっと大きな損失となろう。物質的な面でなく、文化的・精神的な面でだ。日本の文化度の高さや精神性から学ぶことは多い。それを見過ごして成長しても、強い国になるとは言わない」。
この言葉が、大きく心に残った。僕は、日本はもっと中国を信頼してもよいと思う。中国には、日本らしく誠実に、優しさを持って、粘り強く接することが重要なのであろう。日本の良さは、必ずや中国人が認めることになる。隣の大国とは、主張することは主張しながらも、誠実に粘り強く付き合うことが重要なのであろう。
対談を終えて、カジュアルな服に着替えて、グロービスの上海事務所を訪問した。入口の受付の前で、中国人スタッフの王さんとツーショット。グロービスは、中国では、「顧彼思」と言う。
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グロービス事務所を訪問後、1階のスターバックスで、モカ・フラペチーノのスモールを買った。何と日本円にして500円以上もした(33中国元)。車の中でメールやツイッターをしながら、空港に向かった。フラペチーノの細かい氷片が気持ちいい。もうそろそろ空港に着く。次は、シンガポールだ。
2013年6月5日
バンコクからネピドーに向かうフライトで執筆
堀義人