経営「社員の皆さんは言ったことに責任を持って、とにかく行動してほしい」
人事「会社の要となるミドルが当事者意識をもって変わらないと、会社が変わらない。若手が辞めていくばかり」
管理職「ただでさえ人手不足で自分もプレイングマネージャーとして忙しいのに、経営は無茶なオーダーばかり落としてきて……本当に余力がない」
若手「管理職や役員がもっと学んで、変わってもらわないと、自分たちがどんなに頑張っても会社は何も変わらない」
上記は、様々な企業の方とお話した中で、よく漏れ聞こえてきた言葉だ。コロナ禍や繰り返される戦争、大災害に加え、人材の流動化。こういった変化の中で起こる問題に対して現場は、人員が決して潤沢でない中でも何とか打ち返す。しかし同時に、「余力をつくれ」「残業はするな」とも言われ、働き方は更に高度化しているように見える。
そんな中で、本著は変化の時代を乗り越えるために各要素を有機的につなげ、「最強の現場」を目指すロードマップをシンプルに描いていることに気づいた。更に言えば、この「最強の現場」に変化できない企業は衰退するのではないかとまで思える。では、この「最強の現場」に変化するには、どうすればよいのだろうか。
いま、組織の現場力は低下している
現場力とは、その現場が有する問題解決力を指し、経営において現場力をつけることとは「実行力を担う卓越した組織能力を構築すること」ともいえる。
3つの組織能力(①保つ能力、②よりよくする能力、③新しいものを生み出す能力)によって形成されており、そのポイントをまとめたのが下記である。
どの能力も「主語」を自分にするところは共通だが、目指す問題解決の時間軸や空間軸の拡がりが異なる。そしてどの能力をコアとするのかによって、平凡な組織~非凡な組織と現場力のレベル感が変わるのが特徴だ。
前述したような外部環境の目まぐるしい変化、加えてこの20年の日本企業の「投資抑制」「管理強化」「前近代的な組織カルチャー」「低収益な事業の放置」により、いま多くの組織は「平凡な組織以下の現場力」になりつつあると本著では指摘されている。
新しい現場力とそのメリット
この20年で低下した現場力をアップデートしなければならないが、アップデートされた「新しい現場力」とは何か。具体的には、5つの要素があるという。
- 「厄介な問題」に対応する
- 「つながる力」を高める
- 「フロントエンド現場力」を強化する
- 「多様性」を活かす
- テクノロジーと共存し「現場実装」する
これらの要素は「価格改定」「DE&I」「DX」と、いずれも各社が必死に取り組んでいるテーマに繋がるものだと想像がつくだろう。ただし、個々の要素を「経営トップや株主がそう言っているから」「中期経営計画で記載されているから」というタスク的な姿勢ではなく、自社・従業員の成長につなげるために、各要素を有機的につなげていくことが重要である。「新しい現場力」の発揮においては、これらの要素をもって、アジャイルに問題解決することが求められる。
なおこうした能力を身に付けることのできた組織には、どのようなメリットがあるのだろうか。
もちろん企業の更なる成長のために必要ではあるが、それだけではない。人材の流動化により、会社が選ぶのではなく、従業員が会社を選ぶ時代になった。そのため、会社自体が魅力的な組織にならなければ社員の流出は加速するのである。
会社自体が魅力的な組織になるためには、「会社が稼ぎ、成長し続ける」のみならず、社員が「幸せ」になる土壌を作らなければならない。新しい現場力はこの幸せな土壌づくりにも大きな影響を与える要素であり、これを獲得することで優秀な人材が集まり、更に組織能力は上がる。会社自体も更に成長できるのである。
串団子モデルと「みんながリーダー」という意識が再生のカギ
ここまで「新しい現場力」について書いてきたが、現場力だけあれば経営が成り立つものではない。文中では、理念・ビジョンが軸となり、競争戦略・現場力・組織カルチャーが有機的につながる「串団子モデル」が企業を再生に導くカギだと語られている。そして、この「串団子モデル」をリードするのが、「みんながリーダー」という組織の意識醸成だ。
この「みんながリーダー」とは、社員をわくわくさせるビジョンを示し、仲間たちと一緒にフィールドで汗をかく経営トップのリーダーシップと、主体性が発揮された現場のリーダーシップで成り立つという。
変化が激しく、様々な問題が日々勃発する中で、組織として一枚岩になって突き進むことが難しくなっている。また問題が絡み合っているため、どの切り口で何を考えたらよいか分からず、誰かが強めに言った意見をもとに問題解決しようとし、疲弊するリーダーも多いのではないか。
5つの現場力を身に付けながら、「みんながリーダー」という意識を醸成し、「串団子モデル」を構築し、企業を再生させる。本著のこのシンプルなロードマップにより「自社は、これまで挙げてきた要素(意識、串団子モデル)がどのレベルにあるのか?」「どれをアップデートさせることにより、更に自社は強くなれるのか?」を組織として対話し共通認識を持つことが容易になる。それにより、組織として次の重要な論点・アクションがクリアになるはずだ。
本著は再生の一方を組織として踏み出す上で、非常に有効な一冊だと考える。
『新しい現場力: 最強の現場力にアップデートする実践的方法論』
著:遠藤 功 発行日:2024/7/17 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社