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不透明な時代に道徳と経済の一致が必要だ――『詳解全訳 論語と算盤』

投稿日:2024/08/27

「今の中国は利益至上主義、お金が全てになっている。しかし、今後毎年10%の成長を継続するのは不可能だ。3-4%でもいい、安定した成長を持続させるにはどうするかを考えるフェーズに入っている」

私が、実際に中国のビジネスリーダーから聞いた言葉だ。彼、彼女らの話から、私は中国のビジネスリーダーたちが急成長に疲れ、あるいは限界を感じ、新しい経営の在り方・拠り所を模索しているように感じた。

このような状況は、中国だけのものではない。VUCAの時代と言われて久しいが、近年、AIの発展と普及や世界情勢の急激な変化により、ビジネス環境は不透明さを増している。世界中の多くのビジネスパーソンが将来に不安を抱えているのではないだろうか

100年以上前の日本でも同様の危機感を持ち、資本主義における中和剤の必要性を説いた人物がいた。新一万円札の顔となった渋沢栄一である。

本書は、そんな渋沢栄一の名著『論語と算盤』に新たな解説を加えた一冊だ。
渋沢の考えの背景にある時代状況や、論語や孟子など中国古典についての詳細な解説が豊富に含まれており、彼の思想をより深く学ぶことができる。

「論語」と「算盤」が並立した背景

論語は孔子の教えをまとめた中国古典で、企業活動における道徳を指している。算盤は経済活動を指す。渋沢栄一が一見かけ離れたこれらを併記しているのは、経済活動を長期的に持続させるにはこの2つの要素の一致が必要不可欠だからと考えていたからだ。

政治・道徳と経済を読み替えによって結びつけた

本書で、渋沢は論語を彼なりに大胆に解釈し、この2つの共存を追求している。

例えば『論語と算盤』では、「人間であるからには、誰でも富や地位のある生活を手に入れたいと思う。だが、正当な方法によって手に入れたものでないなら、しがみつくべきではない。逆に貧賤な生活は、誰しも嫌うところだ。だが、『正しいやり方をしても貧賤に落ち込んだ』という場合以外は、無理に這いあがろうとしてはならない」という論語の一節が挙げられている。

これは本来、富や地位は公益や国益を追い求め、成果を出した結果得られるべきものという政治的・道徳的な文脈で書かれたものである。なぜ渋沢はこのように実業に近づけて読み替えたのか。

なぜ「論語」と「算盤」を共存させたのか

現代語訳・注解者の守屋淳氏は、これを次のように解説している。

商売に携わる人間は政治家とは異なり、誰も税金や給与を払ってくれるわけではないため、富や地位は当然追うべきものであるという前提がある。こうした経済活動的な文脈を肯定するために渋沢は、「孔子でさえ富は必要だといった。必要であるなら、当然追い求めてよいものだ。ただし、その追い求め方には正しい/正しくないがある」と読み替えているのだ。

このような読み替えは、紀元前6~5世紀ごろを生きた孔子の時代と、明治維新を生きた渋沢栄一とでは状況が異なる中で必要な営みであり、こういった努力によって、日本の近代化において商業道徳が少しずつ確立されていった面があるとも解説されている。

加えて私が思うのは、日本にはこのように相反するキーワードが同時に受け入れやすい土壌があったのではないだろうか、ということだ。以前、ある臨済宗の住職の方から「不二」の話を聞いたことがある。不二とは、相反する事柄を一つと捉える教えだ。もしかしたら、こういった考えが我々の思考に影響をもたらしていることも、「論語と算盤」というコンセプトが日本に受け入れられた背景にあるのかもしれない。

「論語」はなぜ必要なのか?

論語を実践すれば儲かるのか?と考える人もいるかもしれない。ここで思い返してほしいのは、日本は長寿企業が世界一多く存在している国、ということだ。またそれらの多くでは、単なる経済活動だけでなく、本書における論語のような道徳が根付いているように私は思う。

例えば、日本最古の財閥である住友の事業精神には「自利利他」という言葉が出てきており、これは「自らの仏道修行により得た功徳を、自分が受け取るとともに、他のためにも仏法の利益をはかる」という仏教の教えである。このようなビジネスにおける道徳は、短期的な利益をもたらすわけではないかもしれないが、長期的に企業を発展させるうえで重要な意味を持つのではないだろうか。

冒頭で述べた通り、近年のビジネス環境は不透明さを増し、ChatGPT等の登場により、人の価値を深く考えなければならない時代が到来している。情報収集や分析はAIに任せるとしても、仮説を立て、情報を解釈し、意思決定するのは、引き続き人の役割として残るとするならば、今後、不透明な時代を乗り越えるための支えとなる「道徳」の重要性はますます高まっていくと考えられる。

不透明な時代に、事業の発展と持続を実現するためのひとつの考え方が、この本で示されているのではないか。


詳解全訳 論語と算盤
著:渋沢 栄一 翻訳:守屋 淳 発行日:2024/7/1 価格:2,200円 発行元:筑摩書房

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