apple to apple――忘れがちな基本だからこそ大切に

今年6月発売の『グロービス流 あの人頭がいいと思われる 考え方のコツ33』から「4.比べて考える」の一部を紹介します。

数字はそれそのものだけではあまり意味を持ちません。それに意味を与えるのは、同種のものとの比較です。売上高であれば、対前年度売上高、対目標売上高、対競合売上高などで多面的に比較するからこそ、例えば自社の今年の売上げが順調だったかといったことを評価できます。学校のテストの点数も、対平均値、対合格ラインなどとの比較をしっかり行うからこそ意味が出ます。ただ、同種のものとの比較――apple to apple――は常に容易というわけではありません。企業や国によってある数字の定義が変わったり、社内の時系列比較でも、途中で定義が変わるということはよくあることです。ニュースによく出てくる日経平均株価ですら、銘柄の入れ替え等に伴う非連続性はよく指摘されることです。数字から何かを判断するときに、そもそも比較する意味がある数字と比較しているか、定義や前提は同じと見なせるのかを確認すること、そして比較が難しいときにどのような工夫をするか、落とし穴に落ちっていないことを確認することなどが、腕の見せ所とも言えるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

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意味のある比較を行う

定量分析では「apple to apple」ということがよくいわれます。端的にいえば、比較をするのであれば、極力同じ定義や測定条件で出てきた数字と比較すべきというものです。たとえば身長という数字は、世界各国で定義に大きな差はありません。また、朝測るか夜測るかで数ミリ程度の誤差は出るかもしれませんが、10cmもずれたり、場合によっては半分になるということもありません。その意味で比較しやすい数字です。

一方で、企業ごとの平均年収はどうでしょうか。これはやや曲者です。平均年収ですから、式で表せば、年収総額÷従業員数となります。カギは何をもって従業員とみなすかでしょう。

昨今は働き方も多様化し、正社員ばかりというわけではありません。派遣の方もいれば、契約社員の方も多いでしょう。特に契約社員の方の扱いはやや面倒です。もしフルタイムでその企業でしか働いていないのであれば、本来は従業員と同じ扱いにすべきともいえますが、場合によっては「外注費」という項目に仕分けされ、年収総額には反映されていないかもしれません。我々グロービスも、正社員以上に売上げに貢献されている外部の講師の方は多々いらっしゃいますが、やはり外注費となってしまいます。

また、世の中のランキングを見ると「ホールディングズ」と名の付く企業が平均年収の上位に来ることが多いです。しかし、これは社員の役割や年齢層が通常の事業会社とは大きく異なりますから、多くの企業にとっては適切な比較対象ではないのです。

その他にも「営業担当者当たりの売上高」や「売上高開発費率」などは、実態を知らずに比較してしまうと正しい意味合いを引き出せないことがあります。

ライバル企業では営業とエンジニアは厳密に分けている一方で、自社ではエンジニアが顧客先に出向き、営業的な仕事にも多くの時間を使っていたとしたら、彼らを営業人員にカウントしないで「営業担当者当たりの売上高」を出してしまうと、見た目以上に自社の生産性が高いように見えてしまうのです。

With or withoutで比較する

これはやや上級編ですが、ある要素があるものとないもので比較することも有効な示唆をもたらすことがあります。科学の実験などでは当たり前の手法ですが。ビジネスでも使えることがあります。

具体的には「創業者が現在も社長である企業の業績」と「創業者がもういない企業の業績」を比較するなどです。このケースでは、すべての該当企業を選ぶわけにはいかないので選択の際に恣意性が入ることは否めませんが、極力それを排することである程度意味のある示唆を引き出すことはできます。ただし、この事例の場合は疑似相関が生じる可能性があるので(例:創業者が現在も社長である会社は若い会社が多いなど)、そこには注意が必要です。

むしろ、自分が本当に知りたい要素の有無の差を、自然科学の実験のようには簡単に調節できないことの方が多く、疑似相関が生じやすいと理解しておくことが大切です。

たとえば、MBO(目標管理制度)を高圧的に行うのとマイルドに行うのとで、どちらが育成上の効果が出るかを社内で実験するのは容易ではありません。できなくはないですが、もしどちらかの結果が悪いとしたら、その実験に付き合わされた人間からは不満が出るでしょう。そこで仕方なく、そもそもそういうやり方をしている上司間で比較を行うといった手段が次善の策として用いられるのですが、そこには当然、MBO以外の要素も(例:営業と開発で多少異なる)入ってしまうのです。

なお、社会科学の分野では、意図せずに生じた差異を比較して意味合いを導き出す「ランダム化比較試験「Randomized Controlled Trial)」が用いられることがあります。一企業で行うのは必ずしも容易ではありませんが、そうした対照群がないか検討してみることも時には価値を生み出します。

 

グロービス出版
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グロービス流 「あの人、頭がいい! 」と思われる「考え方」のコツ33
:グロービス 発行日:2021年6月16日 価格:1,650円 発行元:ダイヤモンド社

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