仕事に役立つ思考のコツ
正直に言って、この本をどうお勧めするのかは、迷うところだ。名は体を表すからといって、「『あのひと、頭がいい!』と思われたいでしょう。ぜひ、この本を!」というのは違う気がする。
思考=考え方について書かれた本は、続々と出版されている。「思考 本」でググる(「ネットサーフィンで考えるコツ」については本書の項目8に取り上げられている)と、「お勧め本25冊」とか19冊とか15冊とか、お勧めする本だけでも二桁になるらしい。
その中において、この本の特徴は、思考について体系的に思考した本ではなく、「必ずしもきれいに構造化されていなくても」「ビジネスパーソンにとって有効な」考え方のコツがピックアップされているところだ。グロービスの授業で講師が教える思考のコツがいっぱい詰まっている。
33のTipsは構造化されていないとは言うものの、4つのパート「基礎編」「応用編」「発展篇」「日常生活篇」に分けられていて、一つ一つのTipsは冒頭に漫画でその考え方を印象的に紹介し、最後には「一目置かれるためのポイント」としてその考え方を使いこなすためのコツがまとめられている。非常にわかりやすい。
一方で、33のTips全てが容易に飲み込めるわけではない。「今までその考え方のフレームを使ったことがない」、「その考え方の根底にある価値観が合わない」、「例えがピンとこない」と言うものもあるだろう。しかし、体系化していないので、どのTipsからでも読めるし、つまみ読みもできる。飲み下せない「コツ」にぶち当たっても、そこで本を投げ出す必要はなく、読み進んでいける。私自身、グロービスの教員だが、この考え方は使ってないなあと読み返す項目もあった。
思考は、個人の価値観は切り離せない
この本を読み思考することで、思考の本質に少し近づけたような気がする(これ自体このタイミングでの思考であって、唯一無二の真理ということではない)。つまり、思考とは全てきれいに整理される一連の流れのようなものではなく、跳び跳びであり、根底にある個人の価値観と切り離されることはなく、馴染みのない考え方はにわかには理解できないものなのだ。
考え方のコツを持った人というのは、自分の考え方が、時に「自分の価値観に依拠した自分独自のフレームなのでそれ自体容易に理解されないこともある」という客観性を持ちつつ、思考に行き詰まったら別の考え方にぴょんと跳び、違うフレームを使って考え直す(22,23)という所作を身につけた人なのではないか。
このような人を「頭がいい人だ」と思う方にとって、この本は有効だと思う。そして「自分はどちらかというと頭がいい方かもしれない」と思っているビジネスパーソンに、本書を勧めたい。自分の持っているコツを整理し直し(28,29)、客観的に眺めてみる(11)のに、この本が最適だ。ビジネスの実例がふんだんに挙げられている(7)ので、自分の実務上の知識にも照らして考えやすい(15,16,17)。
さらに、グロービス 経営大学院で学んだ経験がある方には、あの授業であの講師が言っていたあの考え方だなあと、考え方のコツとともに、その授業の内容が懐かしく鮮やかに思い出されるという特典がつく。
*文中カッコ内の数字は、書籍中の33のコツの項目との関連を示しています。
『グロービス流 「あの人、頭がいい! 」と思われる「考え方」のコツ33』
著:グロービス 発行日:2021年6月16日 価格:1,650円 発行元:ダイヤモンド社