実はイノベーションの妨げになる⁉「論語的価値観」
イノベーションを生み出す多様性のある組織への変革など、近年の社会環境の変化に合わせて、企業組織の在り方も変革を迫られている。一方で、組織に根強く残る「理不尽な上下関係」「努力・精神主義」「保守的な姿勢」のような意識、行動様式により、中々変革が進まないという話もよく聞く。
このように組織に根強く残る価値観は、実は「論語」や儒教の教えが影響しているというのが本書の主張だ。それを事例も交えながら丁寧に解説している。しかも、個人における価値観の影響は一律ではなく、世代・地域・家庭環境等により大きく異なり、人によって「濃度」が違うという。
私自身は新卒で入社した組織や、大学時代の体育会系の部活経験などから、比較的「論語濃度」が濃い価値観に共感するタイプであることが認識できた。
論語を使いこなし、信用される個へ
本書の前半は、論語のマイナス面のある事例を取り上げているが、論語にはもちろん効用も多い。古くから徳の高いリーダーを育成するための教科書として使われてきている。本書の優れている点は、論語ばかりを礼賛したり、また否定したりせず、自分と周囲を知り自由に生きるための手段として活用する方法についての示唆も示しているところである。
著者は、「論語的価値観」の本質や、強みと弱みを理解した上で、使いこなすことを推奨している。しかしながら、日本人にとっては無意識に刷り込まれており、知らずに価値観を守ることが目的化しやすいため、自覚的に論語を使いこなすことが案外難しい。「和や秩序は乱してはいけない」「欠点はなくさなくてはいけない」「どんな時も頑張らなくてはいけない」といった価値観は、どれも悪い考え方ではなく、むしろ美点にもなるが、それ自体が目的化すると、変革への抵抗やイノベーションへの妨げなどになり冒頭にあげたマイナス面が表出するのである。
終盤では、新しい時代の到来に触れている。ネット社会、グローバル社会が進展し「個」の価値が試されるようになった今、所属先の組織の名刺や権威ではなく、個人として「信用される人柄」を持っているか否かが重要視される時代の到来だ。そんな今だからこそ、個人の人間力を磨く「論語」を学び直す必要性が高まっている。その際には、本書でも紹介されている渋沢栄一を参考に「論語」と「算盤」をバランスよく調整する事が重要である。
変化の激しい現代において、己を知り、自分を取り巻く世界を理解することで、呪縛から解き放たれて、より自由に生きるための一助に本書がなることを願っている。
『『論語』がわかれば日本がわかる』
著者:守屋 淳 発行日:2020/2/6 価格:968円 発行元:筑摩書房