リモートワークの本質とは
急なコロナ禍で強制的にリモートワークをせざるを得なくなった方、リモートチームでのマネジメントを進めざるを得なくなった方も多いだろう。「新しいデバイスやツールの導入」「リモート飲みでのコミュニケーション」など「表面的」なリモートワークへの対処はできているかもしれない。しかしリモートワークの「本質」に果たしてうまく向き合えているだろうか?リモートワークは仕事の意義や個々の価値観を組織の中で、そして個々人の中で浮き彫りにした。ここに果たしてうまく向き合えているだろうか。
『強いチームはオフィスを捨てる』という本を過去に見た事がある方もいるかもしれない。過去10年リモートワークを実践し、成果を出してきた BaseCamp 社(シカゴに本社を置くソフトウェア会社)によって2013年に書かれた本が文庫版として再出版されたのが本書だ。事例として古いものもあるが、長期に渡ってリモートワークを推進してきた同社だからこそ伝えられる今に生きるエッセンスは十分にある。
リモートワークでは「仕事の意義」をごまかせない
「リモートワークでサボる人がいる」「顔が見えないのに評価できない」という声も聞くが果たしてそうか。
マネジャーにとって楽なのはメンバーが席についてきちんと仕事をしているかを監視する事だろう。しかし本質的に向き合わなければいけないのは仕事の意義や価値であり、メンバーが十分に成果を出す事だ。人は刺激を求める生き物だ。わくわくするような仕事に取り組んでいる時にはマネジャーが一挙一動を見張っていなくても仕事は進む。
本書では仕事はオフィスでしかできないと従来思われていた数多くの点について新しい視点での示唆を与える。「会社でないと集中できない」「ミーティングをしないと仕事は進まない」「今すぐ質問ができないと困る」といった点に本書は真っ向から異議を唱える。
リモートワークだからサボるのか、それとも仕事が面白くないからサボるのか。強制的にリモートワークをせざるを得なくなった今だからこそ見えてきた「仕事の本質」がある。マネジメントが考えるべきは、仕事の意義を再定義することだ。
リモートワークが拓く人間の自由と可能性
リモートワークは、仕事の意義だけでなく、個々人が何に人生の意義を感じるのかも突きつける。たとえば、「リタイヤしたら世界旅行をしたい」そう思っている方も多いかもしれない。本書では、なぜリタイヤを待つ必要があるのかと問う。リモートワークであれば世界中のどこからでも仕事ができる。さらに世界を旅する事で新しいインスピレーションが生まれ、新しい価値創造にもつながる。
本書では仕事ひとすじの社員はいらないと説く。ひらめきや創造性は多様な経験の中から生まれるからだ。会社としても社員の経験を豊かにする事には惜しみなく投資をしたい。
個人の働き方だけの話ではない。企業にとってもリモートワークは世界中からの人材獲得を加速できる。場所を気にせず優秀な人材を雇い、様々な豊かさを生み出せる。また、家庭の事情などで移住を希望する優秀な社員の退職を減らす事にも効果がある。
時代は明らかに組織の時代から個人の時代へと変化してきている。まさに新しい時代の働き方がリモートワークの中にあるとも言えるだろう。
リモートワークの注意点
ここまでリモートワークの良い点を紹介してきたが、全く人と会わずに完全にリモートワークで仕事をする事が良いとは本書でも言っていない。孤独は人を狂わせる。リアルで会う事の大切さについても語ってくれる。
リモートワークを単に導入するだけだと情報格差が生まれたり、存在感のないメンバーが生まれたりする。文章力の低いメンバーやネガティブな発言をするメンバーがいる事のデメリットにも、良いチームを運営するためには注意が必要だろう。今後リモートワークを積極的に採用していくのであれば事前に潰しておきたい点も多い。
私がマネジメントをするグロービスのエンジニアチームもコロナ禍が発生する以前よりフルリモートワークの社員を迎え入れた。リモートワークを前提とする働き方において、透明性の強化や個々人のアウトプット強化は避けて通れない。今思えば当初はリモートワークの社員にとって働きにくい部分も多かったと思う。積極的にリモートワークに舵を切ったことで見えてきた新しい組織のあり方がある。そしてそれは今も進化を続けている。
これからの時代のリモートのマネジメントとして、10年にわたりリモートワークを実践してきた"達人"からの学びを新しい時代のマネジメントにぜひ活かしてほしい。
『リモートワークの達人』
著者:ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン 翻訳:高橋璃子 発行日:2020/7/2 価格:880円 発行元:早川書房