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ますます重みを増すコンプライアンスとの向き合い方―『企業不祥事を防ぐ』

投稿日:2020/07/27更新日:2020/07/31

印鑑にかけられた魔法

新しい法令等ができたことで、仕事が増えたり、仕事の進め方を変えたりした経験をお持ちではないだろうか?

たとえば、印鑑。新型コロナウイルス感染拡大により、多くの企業が在宅勤務となった。その際に、印鑑を押すためだけの出社が大きな話題となった。その後、内閣府・法務省・経済産業省が「契約書への押印は特別の決まりがない限り不要」という見解を発表し、企業は脱印鑑に舵を切り始めた。印鑑を特別な存在にしたのも、新型コロナウイルスによってその魔法を解いたのも、法令や行政機関が設定したガイドライン(法令等)である。

押印の件は緩和の方向への変更であったが、法令等の新設や変更の多くは、企業の行動を律するものである。法令等は遵守するものであり、新設されたり、変更があれば、しっかり対応しなければならない。

法令は遵守してさえいれば良いのか?

では、コンプライアンスという名の下に、我々は法令を遵守してさえいれば良いのだろうか?

いいや、法令遵守だけをやっていれば良いという意識では危険だ、というのが本書の指摘である。

本書は、危機管理やコンプライアンスを専門にする弁護士として、様々な企業不祥事と対峙してきた著者によるコンプライアンスとの向き合い方の指南書である。昨今では、コンプライアンスは広く社会に浸透し、もはや一般教養の感もあるが、本書では、その意味でコンプライアンスの基本を押さえておきたい方にもおすすめだ。さらに、著者の経験した事例が豊富に掲載されているので、コンプライアンスの推進を実務で担っている方にも役に立つ一冊だろう。私も学内規程や契約書の作成に携わっているが、特に参考になったのは、著者が重要な概念として挙げていたプリンシプルベースという考え方だ。

コンプライアンスとは社会規範というステークホルダーの期待にこたえること

今般、コンプライアンスの重要性がますます大きく叫ばれる一方で、報道を賑わすような企業不祥事が増えている。コンプライアンスを法令遵守と捉えていると、企業不祥事の増加は防げないと本書は指摘する。

コンプライアンスの本質はレピュテーションリスクへの対応であり、レピュテーションを形成する企業をとりまく様々なステークホルダーへの期待に応えることである。レピュテーションの毀損が企業価値の毀損につながる。ステークホルダーが期待するのは社会通念に照らして誠実に企業活動を行うことである。こういった期待こそが社会規範であり、社会規範をルール化したのが法令である。法令は社会規範に合わせて変わっていくが、社会規範の変化・拡大の後追いとなり、変化のスピードに付いていけていないのが現状だ。だから、法令遵守では不十分なのである。

では、どうすれば良いのか?本書が取り上げるのは、プリンシプルベースという考え方である。

法令遵守において採用しがちなのがルールベースという考え方である。「できること、できないこと(ルール)」を明確に定めて規制される側の予測可能性を確保するものである。一方、プリンシプルベースは、細かいルールは定めず、原理原則(プリンシプル)を明示し、どのように行動するかは現場の判断に任せるという考え方である。状況に応じてプリンシプルの適用方法を考えながらリスク管理を実践していくので、変化の激しい現代社会に適した方法である。

プリンシプルは法令の条文から出てくるものではなく、企業理念や社員一人一人の働くことの意味から出てくるものである。だからこそ、ステークホルダーは企業をプリンシプルで判断するし、社員はコンプライアンスに前向きに取り組めるようになる、というのが本書の主張である。

コンプライアンスとの向き合い方

コーポレートガバナンス・コードにおいてComply or Explain(遵守せよ、さもなくば説明せよ)という考え方が採用されているが、Comply一択ではなくExplainという選択肢がある。プリンシプルベースはExplainを厭わないことである。法令の一字一句を理解し、遵守することではなく、法令の趣旨や社会規範を理解し、それらに沿った形で自社の活動を律すること。それがコンプライアンスとの向き合い方だと、本書を読み私は考えるようになった。規程や契約書を作成する際に、ひな型をそのまま取り入れるのではなく、自社のプリンシプルを踏まえて、しっかりと考えて取捨選択すること。まずは、そんなところから取り仕組んでいきたい。
 

企業不祥事を防ぐ
著者:國廣 正 発行日:2019/10/18 価格:1870円 発行元:日本経済新聞出版社

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