理不尽な世界でも折れない登場人物たちのメンタルタフネスに学ぶ
週刊少年ジャンプに連載されていた「鬼滅の刃」。人気絶頂の中、先日の週刊少年ジャンプ24号(2020年)の205話をもって完結しました。
「鬼滅の刃」は大正時代を背景に、理不尽な出来事に遭遇するところから物語が始まります。今、日本や世界は未曽有の事態に襲われています。新型コロナウィルスの影響は大きく、不条理を感じている人も多いでしょう。「鬼滅の刃」は、理不尽極まりない世界が描かれており、事柄は違えど同じように読み取れます。そして、この理不尽に打ち勝つための努力をする人たちが大勢出てくるのです。
本書の中心となるのは、負けない心・強い心を持つことであり、それはメンタルタフネス(mental toughness)の概念です。精神的な強さ、ストレス耐性として認識されているものです。
このマンガに出てくるキャラクターたちの多くは、事態に変革をもたらすために、命をかけ努力し、負けずに折れない強い心を持っており、メンタルタフネスを存分に表現しています。逆に、心が折れてつけこまれたことによって、強さを履き違えた姿を現したのが、人間に禍をもたらす鬼たちであるという構図です。
負けない心や強い心を持つキャラクターは、王道の少年マンガの主人公には多く表現されています。
当然、「鬼滅の刃」の主人公である竈門炭治郎(かまど・たんじろう)もその1人です。そして、鬼殺隊の柱たちも絵に描いたような強靱な精神力と身体能力を保有しています。
他の王道マンガと異なる要素があるとすれば、それは炭治郎の慈悲深さだと考えます。敵にも味方にも慈悲深い様は珍しく、且つメンタルタフネスに必要な力です。
主人公・炭治郎を支える「慈悲深さ」とセルフエフィカシー
メンタルタフネスには、コミュニケーション力が高いことも含まれます。どのような状況にあっても他者を許し、善い部分を見ようとする慈悲の心は愛他性であり、質の高いコミュニケーション力を支えるものとなります。
主人公の炭治郎は、元々は家族思いの優しい炭売り少年でした。そのただの少年だった炭治郎が、どんなストレスにも耐える力を高めることができたのは、慈悲深さの他に以下の視点があると分析できます。
1.素直であり且つ自己がある
2.「誰かのために」という向社会性
3.状況を分析し、リソースを点検し、創意工夫する思考力
4.使命感・目標認識力
5.セルフエフィカシー(自己効力感)
負けない心・強い心であるメンタルタフネスを高めるには、中核にセルフエフィカシーの高さが必要です。セルフエフィカシーとは、カナダの心理学者であるバンデューラが考案した概念です。簡単に言えば、「自分の能力を信じる力」となります。これまでの知見や私自身が行った調査でも、人生満足度が高く、キャリアを切り拓き、ストレス耐性の高い人は、セルフエフィカシーも高い傾向にありました。
「鬼滅の刃」は読み方次第で生き方を学べる
「鬼滅の刃」から以上のことを学べる要素を照合し、本書『「鬼滅の刃」流 強い自分のつくり方』(アスコム)は生まれました。本書はコロナ禍前にまとめましたが、発刊されるときには、コロナ禍となり、正にマンガと現実が重なる事態となりました。
内容は中高生でも読めるように簡易に表現しているため、アカデミックな形には思えないかもしれませんが、根本原理としては上述の慈悲深さと5つの視点を織り交ぜています。
本書の第1章から第4章までで上述の視点を表現しています。また、第5章は「心が折れてつけこまれたことによって、強さを履き違えた姿」である鬼を反面教師として取り上げています。誰もが少なからず持つ、恨む心や妬む心などは度が過ぎれば「鬼」となることを表現しています。「鬼」とは心の闇であり、決して人間と異なる存在ではなく表裏であると考えています。
<目次>
第1章 強い自分づくりに欠かせない、たったひとつの心がけ~「積み重ね」がひとりの炭売りの少年を変えた~
第2章 折れない心のつくり方~炭治郎はなぜあきらめないのか~
第3章 強い人がやっている自分を強くする習慣~炭治郎が強くなった理由~
第4章 仲間を引き寄せる「強さ」の秘けつ~炭治郎の優しさは真の強さの裏返し~
第5章 人間の弱さを鬼に学ぶ~鬼は人間の反面教師だった~
「鬼滅の刃」は、メンタルタフネスとセルフエフィカシーを知る上で非常に役立つマンガです。原作マンガを読み、この本を読んでいただけることで、『鬼滅の刃』は読み方によって、非常に優れた仕事の仕方や生き方の教科書になることがご理解いただけることを願います。
『「鬼滅の刃」流強い自分のつくり方』
著者:井島由佳 発行日:2020/4/18 価格:1430円 発行元:アスコム
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