withコロナ時代、ビジネスはどのように変わるのでしょうか。テーマごとにグロービス経営大学院の教員がオピニオンを紹介します。本記事のテーマは、個人のスキルです。
コロナがもたらす、ESGに即したファイナンス的指標を考える
筆者:鷲巣大輔 (グロービス経営大学院 教員)
もはやESG(環境・社会・ガバナンス)は経営上当たり前の言葉となったが、コロナウイルスの拡大によってその取り組みへの本気度合いに焦点が当たりそうだ。特にダイバーシティや従業員の労働環境に焦点を当てた「S:Social=社会」の観点は、コーポレートファイナンスにおいてもより重要性を増す様相を見せている。
大和証券のレポート(*1)によれば、全世界の資産運用会社、NPO投資家、企業年金が集まる投資家連合(275社、運用資産7.7兆ドル)は、コロナ問題に対する企業に「労働者の健康が最優先」「一時帰休の際には十分な金銭保証を」「自社株買いは停止し、役員報酬も制限せよ」と要求している。この傾向はコロナウイルスによってもたらされた危機に直面している今だけではなく、むしろその危機の中での「良い経験」「悪い経験」によって、これから将来にわたって付き合う企業やブランドが決まりそうだ。
コーポレートファイナンスの観点からいえば、「経営者の仕事とは、投資家・債権者の期待リターン以上のパフォーマンスをビジネスから生み出すこと」であり、その本質はESGの重要性が深まったとしても不変である。ただし、その視野と視座は、より長期的なものになり、継続して顧客をはじめとするステークホルダーの「共感」を得ることができるかどうか、という点にシフトするようになる。
このパラダイムシフトは、当然のことながら、1年や四半期といったスパンで測定する「短期的な収益」以上に、長期にわたって継続的に経済的価値を高められるかということがより重要になる。サブスクリプションモデルではLTV(Life Time Value:一人の顧客がそのライフサイクル内にどれだけの経済的価値をもたらすか)が重要指標とされていたが、これからはほぼすべての企業において、顧客との関係性を長期にわたって継続する、このLTV的発想に基づいたKPIデザインが求められるのであろう。
(*1)「コロナ後の世界」でESG投資の「社会」がより重視されるワケ
withコロナの時代のキャッシュの重要性
筆者:溝口聖規 (グロービス経営大学院 教員)
キャッシュは言うまでもなく事業継続にとって不可欠です。安定した企業活動のためには、ある程度の資金的余裕を確保するのが望ましいでしょう。特に、今回の新型コロナのように、予期せぬ経済環境の変化で企業活動が止まってしまった場合には、キャッシュを持っていることが非常に重要になります。
一般にキャッシュは、貸借対照表(B/S)では「現金及び預金」と流動資産の「有価証券」の合計と考えることができます。そして、「現金及び預金」と「有価証券」の合計が売上高の何か月分に相当するかを表す財務指標を、「手元流動性」と言います。
手元流動性(月)=(現金及び預金+有価証券)÷売上高(月次)
(*)手元流動性は、日単位で表す場合もあります。
通常の経済環境下では、一般に手元流動性は1か月が目安とされています。月中の諸経費等の支払いに備えて売上高の1か月分のキャッシュを確保しておけば、とりあえず事業継続は安全ということです。
しかし、現在のように新型コロナの影響で経済状況の先行きに不透明感が増すと、不測の事態に備えて会社はできるだけ多くのキャッシュを確保しておきたいと思うでしょう。また、機動的な借り入れができるように、日頃から金融機関との関係を構築することも有効になります。
先日、トヨタ(1.5ヵ月分)、ANAHD(2.2ヵ月分)等の大企業が、融資枠や借入金等を増加させ、財務安全性を高めるとの発表がありました。また、サイゼリヤ(3.4ヵ月分)のように、キャッシュが潤沢な会社が数百億円規模の融資枠の設定を検討する等、現在の経済環境の厳しさが伺えます。
*2020.4.24付け記事を再編集したものです。