春休みに時間をとって読みたい書籍をグロービス経営大学院の教員が紹介します。コロナウィルスへの対応に追われ、VUCAの時代であることを痛感した方も多かったのではないでしょうか。そんな時期に自己修養に役立つ書籍をご紹介します。
『チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』
推薦者:吉田素文
今、多くの組織が、これまで無意識に当たり前としてきた物事の決め方、仕事の進め方、リーダーのあり方を根本から見直すべき時にある。
テクノロジーの変化やグローバル経済の変動に対し、注意深く失敗を避け、業務の品質と効率性を高めることでこれまでなんとか対応してきたが、もう限界を迎えている。組織、そして個人として、環境と組織の変化に適応、主導する側になるか、それとも変化に抗う側になるのか。今、方向性を定め、一歩踏み出さなければならない。
本書は、原文の副題、How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economyに集約されているように、情報とそこから生まれる知識が主たる経営資源、競争力の源泉となる第四次産業革命時代において、どのように組織として学習を進め、新たな価値を生み出していくかについて詳述した良書。この危機ともいえる時期こそ、本書を読み、自組織と自分自身を振り返り、進むべき方向を考えたい。
著者:エイミー・C・エドモンドソン 訳:野津智子 発行日:2014/5/24 価格:2420円 発売元:英治出版
『ハーバード・ビジネス・レビュー 企業変革論文ベスト10 企業変革の教科書』
推薦者:林恭子
私たちが生きているこの時代は、VUCAの時代と言われます。先の見通しが立てにくい、けれど、思いもかけぬ大きな変化に巻き込まれていくであろうことは必至の時代です。
そして、ダーウィンの説に従えば「今後も生き残ることができるものとは、強いものでも、賢いものでもない。唯一、変化できるものである」ということになります。企業も同様です。古い価値観や過去の成功体験に囚われず、環境変化を鑑みて柔軟に変革していける企業だけが生き残ることになるでしょう。
一方で、皆さんの周囲では、企業はちゃんと変革できているでしょうか?
……残念ながら、首を横に振っている方も少なくないようですね。
そんな今だからこそ、改めて「企業を変革すること」を基本からしっかりと学び直してみてはいかがでしょう。時節柄、リモートワークの方も少なくないこの時期は、世界のビジネススクールで教えている「企業変革」の著名な論文を、一気に読める絶好の機会です。組織としての変革はもちろん、その中にいる個人の心の中の変革まで、幅広く深く理解できる、まさに企業変革の「教科書」を是非読んでみてください。
編集:ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 訳:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 発行日:2019/8/22 価格:1980円 発売元:ダイヤモンド社
『自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊 上・下』
推薦者:溜田信
志士の五カン*の中の特に「歴史観」「世界観」を磨くのに適した良書。個人の自由と安全は、強力な国家=「リヴァイアサン」なしでは成り立たないが、かといって国家が強すぎると「独裁国家」になってしまうし、弱すぎれば「無政府状態」になってしまう。
その2つに挟まれた狭い「回廊」に入り、国民から成り立つ社会が国家と弛まないせめぎあいを続けることで初めて自由と繁栄できるという主張が、世界主要国の現代の姿並びに、歴史的な経緯を踏まえ証明されていく。
決して解を与えてくれるタイプの本ではないが、今の日本の状態や、これから目指すべき世界に関する視点を得ることが出来ると信じます。まさに今こそ読むべき、かつ読み応えのある骨太の良書。
*志士の五カン:リーダーが意思決定をするうえで必要な5つの軸。堀義人の造語
著者:ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン 訳:櫻井祐子 発行日:2020/1/23 価格:2860円 発売元:早川書房
『話すチカラ』
推薦者:嶋田毅
「話す」ということと無縁のビジネスパーソンはいないはずです。一方で、話の内容や話し方を含め、「話すことに自信がありますか?」という質問に対して、すぐにイエスと答えられる方も少ないのではないでしょうか。
本書は、アナウンサーとしておなじみの安住紳一郎氏が意識しているポイントについて解説し、それに対して彼の恩師でもある齋藤孝明治大学教授がコメントをつけるという体裁の「話し方」や「話すための準備」のTIPS集です。網羅的に話し方を解説した堅苦しい本ではなく、意識するといいよという点をコンパクトにまとめています。
もともとさらさらと読める本ですが、節ごとにまとめもあるので、その意味でも使い勝手のいい本です。小職も仕事柄「話す」という機会は多いのですが、それでも参考になる部分が多々ありました。オンライン会議や動画など、新しいやり方で話す機会が増えてきたという人も多いでしょう。そうしたシーンにも役に立つ1冊です。
著者:齋藤孝、安住紳一郎 発行日:2020/2/20 価格:1540円 発売元:ダイヤモンド社
『時間とテクノロジー』
推薦者:難波美帆
この本は、現代の我々の世界認識のあり方の再考を問うている。現代とはいかなる時代か。
まさに今(あーこの言葉首相がよく使うから刷り込まれちゃったなーと思いながら)ブラウザーに12個タブを開いてYoutubeで「夜カフェBGM」を聴きながらこの原稿を書いている時代で、zoomを使うパソコンの画面上の小さな四角い枠の中に30人参加者の一人として自分が映し出されている時代で、新型ウィルスのパンデミックという事態にSNSには様々な専門家がビッグデータを指数やら対数で整理したグラフと「公の場では科学的な発言はできない」というボヤキが同列に流れてくる時代だ。テクノロジーによって、我々のものの感じ方、空間と時間の感じ方は変化を迫られる。
著者の佐々木氏は、これまで我々は記憶と自己認識、物語の3つを巧みに連携させ世界を認識してきたと説く。我々は時間軸に沿った「因果の物語」で世界を理解してきたと。しかし、実際の世界はそんな一方向性の単純なものではなく、確率とべき乗則に覆われ、新たに生まれてきた「機械の物語」が世界観の更新を迫っている。
テクノロジーによってもたらされた「摩擦・空間・遍在」の新たな感覚は我々に混乱をもたらすだけなのだろうか。いや、違う。「執筆5年、圧倒の20万字」のこの作品を読まれた方は、救いを得るだろう。著者は言う。「因果の物語」に強いられる人生の目的意識から解放され、「全ては眼の前に」ある、それらと善き関係を作る「共時の物語」が「あなたに」委ねられている。〈追記〉「エピローグ」は痺れます。最後まで取っておいてください。
著者:佐々木俊尚 発行日:2019/12/17 価格:1980円 発売元:光文社