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デジタル化する社会で税金はどう変わるのか?――『デジタル経済と税』

投稿日:2019/10/21更新日:2020/01/24

ビジネスに影響を与える税制

2019年10月1日より消費税の税率が引き上げられた。増税の目的であった社会保障財源の確保は日本の財政にかかわり、日本経済や国民の生活に影響を及ぼすため、国民として気になる問題だ。

一方で、ビジネスパーソンとして見逃せないのはビジネスへの影響だ。ビジネスと税制は切っても切り離せない関係にある。私自身も税制への対応で苦労した思い出がある。

例えば、2015年10月にインターネット等を介して取引をした際の消費税の課税有無が決まる国内/国外の判定基準が変更されたことがある。

グロービスでは、オンラインで企業研修を提供しているが、研修を受講する企業が日本国外にある場合、従来はサービス提供者であるグロービスが所在する国内での取引とみなされ、消費税が課税された。

それが、2015年10月以降は考え方が180度変わり、サービスを享受する企業が所在する国外での取引とみなされ、消費税が課税されなくなった。これにより、受講料の請求金額を計算する方法を変更する必要が生じた。

反対に国外の企業からオンラインでサービス提供を受ける場合、消費税が課税されることになった。国外の企業の代わりに、サービスを受ける国内企業が申告納税をする「リバースチャージ方式」という制度が導入され、複雑な手続きへの対応が求められた。

現在の課題は、「国境」と「価値の測定」

なぜこのような税制の変更が起きたのか。その背景を理解するのに役立ったのが本書である。税制を解説する書籍は多いが、ビジネスや社会の変化から税制を議論する類書は少なく、本書は貴重な一冊だ。

本書によると著者が考える税制の課題は、「ビジネスの変化に税制が追いつけていないために適正な課税が実現できていない」ということだ。その原因となっているのは、「国境」と「価値の測定」である。

国境を越えられない税制と容易に越えていくビジネス

税制は国単位で定められ、施行される。国際取引に関しては租税条約が締結され、一定の協調はしているものの、自国の税収を増やそうと各国が必死に税制を設計し、税金の取り合いの様相を呈している。これまでも税金をめぐる国家間の競争はあったが、それが今は激化している。

なぜなら、国境を越えられない税制に対し、ビジネスは容易に国境を越えていくからだ。特にデジタルで提供される商材やサービスは、インターネットを通じて世界中で取引が可能である。企業価値の源泉が土地や工場といった有形固定資産からソフトウェアやノウハウ、ブランドといった無形資産に変わっていったことで、企業自体の国外への移転も容易になった。

本書では、ブランドの所有権を低税率国に移転させ、各国の現地法人から高いロイヤリティ収入を得て節税をしている企業、たとえばスターバックス――スターバックスは、ヨーロッパにおけるロイヤリティ管理を税金の安いオランダで行い、イギリスではほとんど税金を納めていなかった――などが挙げられている。

価値の測定が難しい無形資産がビジネスの中心に

税金は価値のある資産を保有していることや、取引をすることに対して課すことを基礎としている。形のない無形の資産やサービスは適正な価値を見積もることが難しく、課税額の算出を難しくしている。

また、デジタルサービスを提供する企業の価値の源泉となっているビッグデータは誰の所有物で、どこで取引がされたものなのだろうか。Googleで検索をする我々はサービスを受ける立場ではあるが、データを提供しサービス向上にも貢献している。誰にどこで課税するのが適切なのだろうか。

デジタルサービスの取引においては、その資産の保有や取引といった課税の前提となる関係が曖昧になり、課税対象の把握を困難にしている。欧州委員会の調べでは、デジタルビジネス企業の税負担率は9.5%と伝統的ビジネスモデル(23.2%)の半分以下となっており、適切に課税できているのか疑問を感じる状況が生じている。

税制はどう変わろうとしているのか

このようなビジネスの変化に対応し、追いついていけるように税制を整備しようとする議論が続けられている。特に世界規模で活動するIT企業向けの課税が大きなテーマになっている。冒頭に述べた消費税の国内/国外判定基準の変更もその一環だったのである。最近では、OECDが各国での売上比で税収を配分するデジタル課税案を公表し、国境を越えた課税についても検討が進んでいる。

新しい税制が実施されることで、それに対応するというだけでなく、自社に有利になるように積極的に活用する企業も出てくるだろう。対応するにせよ活用するにせよ、企業は変化を求められる。

本書では、本稿で述べた内容以外にも、シェアリング・エコノミーのもとで働く人々の身分(労働者か事業者か)とセーフティーネットの必要性、ITを活用した納税制度、雇用減少に対するベーシックインカム、ロボット課税など扱っているテーマは幅広い。

それは、ビジネスには多様な税金が関連していることを物語っている。ビジネスに影響を及ぼす税制がどう変わっていこうとしているのか。ビジネスパーソンとして押さえておきたい内容である。

デジタル経済と税――AI時代の富をめぐる攻防
:森信茂樹 発行日:2019/4/17 価格:2420円 発行元:日本経済新聞出版社

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