AI時代に必要とされる人材とは?
人生100年とも言われる中で、私たちが今後のAI時代においても必要とされる人材であり続けられるか――700職種を詳細に検討したオックスフォード大学の研究では、将来自動化によって職の47%が失われるだろうと予測されている。この問いは、特に若い世代にとってもはや避けられない。
この問いに対する1つの答えとして、本書では、説得力を持って伝える力のある人材になることだとしている。将来的に機械は人の感情を読むことができるようになるかもしれない。だが、感情を持つことは出来ない。共感を生み、共感により人を動かす力は人間の固有の強みとして残るはずだ。本書では、この点を調査結果も交えながら解説している。
本書によると、投資家であるバフェットも大学のクラスで「伝え方を学び、人前で話が出来るようになれば、(みなさんの)価値は50%上がる」と話しているという。一方で、ミレニアル世代と呼ばれる若者層は、伝える力が弱く、職場で苦労しているとの言及もなされている。
AI時代を生き抜くために、説得力を持って伝える力をいかに高められるだろうか。
アリストテレスが指摘した伝えるための2ステップ
説得力を持って伝えるための方法論は新しいものかというとそうではなく、既に古代ギリシャのアリストテレスが指摘している。アリストテレスは、説得することの最終目標は両者ともに栄えられるように幸せになるようにすることだとした。
その第1ステップは議論のテーマを明確にすること、第2ステップは議論が堅実で論理的だと証明することとしている。特に、この第2ステップでのポイントは、
・ロゴス(論理的であること)
・エートス(信用してくれること)
・パトス(相手と感情的に繋がること)
の3つで議論を支えなければならないとし、この中でも説得においてはパトス、つまり相手と感情的に繋がらないとどうにもならないと指摘している。
私も企業研修の中で受講者が事業戦略を経営層の前で行うプレゼンを聴く機会があるが、論理的であることに焦点が当たりすぎ、経営層と感情的に繋がり、共感を得ることにまで気が回っていないものが多い。そのため、せっかくの彼らの提言が実際の戦略実行までには至らない事例を多く見てきた。このことからも感情的に繋がるパトスの視点は伝える上での大事な要素だと考えている。
ストーリーを武器に相手の感情に繋がる
では、どうしたら良いのか? 本書では、ストーリーで語ることの重要性を強調している。ストーリーと聞くと映画やドラマなどビジネスとは少し離れた印象を持つ方もいるかもしれないが、仕事の場面においてもストーリーは強力な武器となり得る。
みなさんも映画の中で主人公に自分を投影して、ハラハラドキドキしながら場面の展開を見守り、最後には主人公と同じ心境に浸り、すっかり魅了された経験はないだろうか。その経験を踏まえると、ビジネスの場面でも映画のようにストーリーで語ることが効果的であるというのは共感いただけるのではないだろうか。例えば、魅力的な新規事業を一緒に実現したいと思ってくれる仲間の輪を広げていきたいとき、ロジックよりもストーリーの方が響くだろうことは想像に難くない。
興味深いことに、世界的なコンサルティング会社のマッキンゼーでも、映画で用いられるような3部構成(状況、問題、解決)のストーリーテリングの手法を用いてクライアントに説明する方法が採用されていると本書の中で指摘されている。
このストーリーで語る技法は、誰でも学びうる技術として本書の中には様々なヒントが織り込まれ、伝える力を高める一助として明日から実践できるものとしてまとめられている。
スティーブ・ジョブス、キング牧師など世界を動かすほどの伝える力を持つ人達を目の当たりにすると、伝える力は天性のものと思われる方もいるかもしれない。だが、伝え方は学べる技法である。AI時代を生き抜くためにも、本書を通じて実践に繋げてみてはいかがだろうか。
『伝え方大全-AI時代に必要なのはIQよりも説得力-』
著者:カーマイン・ガロ 訳者:井口耕二 発売日:2019/5/23 価格:1980円 出版元:日経BP