Slackの直接上場の背景には何があるのか?

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未上場の急成長企業「ユニコーン」の代表格である、ビジネス対応アプリの米国スラック・テクノロジーズ(以下、Slack)が6月20日にニューヨーク証券取引所に上場した。昨年4月のスポティファイ以来の直接上場として注目を浴びた。

スタートアップ企業は「新規株式公開(IPO: Initial Public Offering)」による上場が通常であるが、Slackは、株式市場への上場にあたって、新株の発行もしくは既存株式の売り出しを伴わない「直接上場(Direct Listing)」を選択した。

一般的にスタートアップ企業は、発行された新株もしくは既存株式を、株式市場を通じて一般投資家に幅広く売り出すことを通じて証券取引所に上場する。これにより、まとまった額の成長資金を入手するとともに、その後も増資によって幅広く投資家から資金の調達が可能となる。一般投資家への初めての株式の販売であることから、 Initial Public Offering、通称IPOと呼ばれている。

スタートアップ企業がIPOを行う主な理由は、以下の通りだ。

(1) 成長投資のための資金を、限られた投資家(ベンチャー・キャピタル、ファンドや企業)から限られた金額ではなく、公開株式市場を通じて幅広い投資家からよりまとまった額の資金を調達する
(2) 上場を機に知名度や信用力を向上させることで優秀な人材の獲得を加速したり、事業取引面での活動をより円滑に行う

では、SlackはなぜIPOではなく、新規株式の発行による資金調達を伴わない直接上場を選んだのだろうか。

直接上場のメリットとは?

前述のように、一般的なIPOの目的は、まとまった金額の資金調達と知名度・信用力の向上である。Slackはユニコーンとしてすでにソフトバンク・ビジョン・ファンドなど複数のベンチャー・キャピタル・ファンドから14億ドルを調達しており、成長投資のための追加資金を調達する必然性は薄かった。Slack共同創業者のカル・ヘンダーソン氏も「今は追加調達の必要性がなかったから」(日本経済新聞 2019年6月22日)と認めている。また、第2の目的である知名度・信用力にしても、Slackのアプリはすでに世界的に幅広く利用されており、さらに知名度・信用力を向上させなくてはならない状況にはない。

直接上場は、新株を発行せず、既存株式の販売も行わないことから、それらの株式を引き受け投資家に幅広く販売する証券会社も必要とせず、上場にあたっての費用を大きくセーブ可能である。また、IPOにつきもののロックアップ(大株主が上場後の一定期間:通常6カ月間はその保有株式を株式市場で売却できない)期間の定めもなく、大株主を含め上場時から自由に保有株式を売却できる。3つ目は、新株の発行を伴わないことから、既存株主の株式希薄化(持ち分割合・議決権所有割合の低下)を回避できる。

スタートアップ企業に投資を行うベンチャー・キャピタルは、投資事業組合としてファンドを組成し、年金基金や大学基金のような機関投資家から資金を集め、スタートアップ企業に投資し、数年後にそれらのスタートアップ企業の上場や転売を通じて投資資金を回収することで、ファンド投資家に資金を返還する。このようなファンドは通常、投資事業組合としての存続期間に定め(通常5年から10年間)があり、その期間中にスタートアップ企業を上場させるか、もしくは他社に売却することで投資資金を回収する必要がある。

このような視点からは、直接上場は、上場によって株式の流動性が大きく向上する(非上場であれば売却先をみつけ値段を交渉する必要があるが、上場していれば株式市場で株価がついており、投資家もいるので売却が容易になる)。さらに、IPOの場合と異なりロックアップ期間もないため、上場直後から保有株式の売却が可能となる点で、ベンチャー・キャピタルにとってみれば、直接上場はIPO以上に魅力的な投資資金の回収手段と言える。

経営の独立性と株主満足をどうバランスするか?

Slackの上場が注目を浴びた理由はもう1つある。上場にあたって、通常の10倍の議決権を付与した種類株式を発行し、過半数の議決権を創業者を中心とする身内で固めた。フェイスブックやグーグルといったIT系のスタートアップ企業に幅広く見られる現象であり、「会社のことは我々が一番よく知っているので、その他の株主には経営に口を出して欲しくない」という創業者グループの意志表示といえる。

昨今、コーポレート・ガバナンス強化の掛け声のもとに、投資家による企業経営への介入が顕著になってきている。長期的視点に立っての経営への介入であれば良いが、株価の急速な上昇による短期的利益を目的とした経営介入といった弊害も目立ちつつある。そのような行き過ぎた株主資本主義への創業者によるアンチテーゼと言えよう。ただ、その反面、大きな議決権を確保した創業経営者としても襟を正し、株主が長期的に満足し納得できる経営を行っていくことが求められる。

世界的に大幅な資金余剰が続いている昨今、ベンチャー・キャピタルを中心に、急成長を遂げているスタートアップ企業(ユニコーン)への大型の資金投入が加速化している。それらの資金の出口として直接上場は極めて魅力的であり、今後とも増加していくものと考えられる。

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