近年、ビジネス界のトレンドとしてすっかり定着した感のある「サブスクリプション・モデル(サブスク)」。「月額○○円で使い放題」というように、一定期間にわたって顧客に料金を払ってもらい、その対価としてモノやサービスを提供していくビジネスモデルが注目を集めています。
多くの業界では、これまで製品やサービスを売ってその都度対価を得るというビジネスモデルでやって来ました。こうした「売り切りモデル」での常識が、経営戦略から細々した商習慣に至るまで染み付いていると言ってよいでしょう。それからすると、サブスクを理解するには抜本的に頭を切り替える必要がある――ここまでは今時のほとんどのビジネスパーソンが共有できる感覚ではないかと思います。
サブスクと従来のビジネスモデルの違い
さて、「頭を切り替える必要がある」ことは分かったとしますと、次はおのずと「では、従来のビジネスモデルと新たなサブスクとでは、具体的にどこがどう違うのか」という疑問が浮かぶもの。本書は、そんな疑問に応えて、新たな経営常識を明快に整理してくれる1冊です。
本書の特長は、従来のMBA的な知見の延長で捉えていい部分と、従来型の常識を捨て去るべき、すなわち今後のビジネスにおいて特に注意すべき部分とが切り分けられて整理されている点です。
前者の例としては、サブスクも広く捉えれば、リースやレーザーブレードモデル(ヒゲ剃り器で儲けるのではなく替刃で儲けるという方法。コピー機とトナーなど応用例は多数ある)などと同じく、収益を一定期間継続して得ていくモデル(リカーリング・モデル)の一つだと位置づけられていることが挙げられます。
必要な投資をいつ回収するか、値付けはどうすべきかといった点については、こうしたモデルから類推して考えることが可能です。
顧客に価値を提供するにあたって、プロダクトアウトの発想ではなく「片付けたいジョブ」に焦点を合わせるべき、といった指摘なども比較的ひんぱんに目にする指摘であり、分かりやすいでしょう。
いっぽう後者の代表例が、本書のタイトルにもなっていますが、顧客との「つながり」についてです。担当営業マンが顧客にぴったりはり付くタイプのBtoBビジネスを除いて、たいていの大量生産大量販売型のビジネスでは、顧客との関係は売ったとき一度きりで、企業にとって顧客は「無名の誰か」でした。
ところがリカーリング・モデルでは継続しておカネを払ってもらうわけですから、どんなに多数であろうとも顧客一人ひとりの好みや傾向を個別に把握しておかなければ成功はありません。
これまでの「売り切りモデル」の常識では、「御用聞き」のいる街の小売店でもない、一定規模以上の大企業においてはそんなことは不可能でした。しかしアマゾンやネットフリックスでは、顧客の行動データを捕捉して分析し個別に「おすすめ」を紹介するという形で、いわばテクノロジーの力で顧客一人ひとりと「つながり」を作ることを可能としたのです。
タッチポイントが日常的に続くリカーリング・モデル
もう一点、印象に残ったのはタッチポイントに関する指摘です。従来のマーケティングの発想ですと、顧客とのタッチポイント作りは「買ってもらうまで」の期間に注意が集中しがちですし、「買ってもらった後」を考えるとしてもせいぜい、メンテナンスの機会、買い替えの機会というように、単発で発生すると捉えてしまいます。
ところが、リカーリング・モデルでは、顧客とのつながりは契約してもらった後もずっと続いているわけですから、日常的に延々とタッチポイントがあると考える必要があります。
そして、そのタッチポイントのどこか1つでも不満に感じさせてしまうと離脱につながるので、なるべく多くのタッチポイントで良好な評価を得続けていかなくてはなりません。アマゾン・プライムで次々と新機能が追加されたり、ネットフリックスが新作ドラマを続々と投下したりするのは、正にこの狙いがあってこそと言えます。
本書を読み終わると、従来型のビジネスを単に課金方法だけ定額制に変えてサブスクと称するだけでは、到底成功しそうにないということがひしひしとわかります。リカーリング・モデルが浸透した新時代の経営常識をぜひアップデートしましょう。
『「つながり」の創りかた 新時代の収益化戦略 リカーリングモデル』
川上昌直(著)、東洋経済新報社、2160円