『測りすぎ』――その定量化が事業をダメにしていませんか?

「それってどれくらいなの?」「KPI(重要業績評価指標)はどれくらい?」――

多くのビジネスパーソンは、日々こういった質問を投げかけられているだろう。「どれくらい」は、金額、数量、時間といった実数や成長率、利益率といった割合など、定量化された情報だ。ビジネスシーンでは、この定量化された情報をもとに報告や議論を求められることは多い。正しく実績を測定し、定量化することで得られるものがある。一方で、誤った測定は、大きな過ちを生み出す。本書はその誤った測定に注目し、安易な測定に対して警鐘を鳴らしている。

そもそも、「測定できないものは改善できない」と言われるように、測定はマネジメントにおいて欠かすことのできない行為である。たとえば、インターネット広告が始まった当初、マーケティング活動をするうえではテレビや雑誌と同様な考え方でページビューが重要視されていた。その後、クリックやコンバージョンなど様々な行動を測定し、定量データを取得できるようになったことで、マーケティングの手法はどんどん精緻になっていった。他にも、中国では、信用スコアという形で日々の行動が測定・評価されるサービスが浸透し、中国人のマナーが良くなったという意見もある。

こうした変化をもたらしているのが、モバイルやセンサー、IoT(Internet of Things)など、デジタルテクノロジーの進化だ。測定対象の拡大と測定コストの低下を実現した結果、様々な状況や活動が測定可能になり、大測定時代とも言える状況を迎えている。ビッグデータやAI(人工知能)の活用が増えれば、ますます測定へのニーズは増えていくだろう。

測定において注意すべきポイントは、「測定は目的ではなく手段」ということだ。測定すれば良い、というものではなく、適切な対象を測定し、測定結果を適切に活用することで測定は効果を発揮する。一方、次のような要因によって測定結果が歪められ、事業や組織が機能不全に陥ることもあるという。

・人間は簡単で単純化できるものを測定しがちな性質があり、情報の歪曲が生まれる
・成果を良くしたいという誘因から、目標達成しやすいものを測定したり、評価の基準に設定したりする
・不都合な事象を省いたり、データを修正したりして改竄を行う場合もある

たとえば、生徒の学力向上を目標に掲げ、全米学力調査(短答式テスト)の結果で教師を評価したことで、学力が低下してしまった学校。患者のために充実した医療機関を目指し、手術の成功で成果を評価したことで、患者を受け入れなくなってしまった病院。寄付者に対して効果的な寄付金活用をアピールするために組織の運営費を節約し、非効率な組織運営に陥った非営利組織等々。本書では、このような事例を詳細に取り上げている。

このように、事業や組織を良くしようと測定を始めたにもかかわらず、測定そのものに囚われて、逆に悪くなってしまうことはよく起こる。特に測定結果が評価および報酬と結びつくことで、機能不全に陥る可能性が高まるという。日本でも、省庁による統計データの水増しや不正処理、形骸化した融資基準による銀行の不正融資、自動車業界の燃費・排気ガスデータの改竄など、不適切な測定に起因する機能不全の実例をいくつも思い浮かべることができる。

大測定時代を迎え、測定の重要性は増すばかりだ。これまでは、測定できないために意思決定に必要な情報が少ないことが課題だったが、それはテクノロジーの進歩で解決できるようになった。今後は、間違った測定結果による間違った意思決定が課題になる。測定には、適切な行動を促し、目的を適切に達成できるような設計が必要だ。そして、それを設計するのは人間の仕事である。

正しく実績を測定し、定量情報をもとに議論をして、事業や組織を良くしたい――そう考える方に本書をおすすめする。

 

測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?
ジェリー・Z・ミュラー (著)、みすず書房、3240円

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