ITと心の時代のマーケティングをマスターせよ 

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改訂4版グロービスMBAマーケティング』が先日発売されました。そこで、執筆者に見所を2回に分けて聞いていきます。第1回は、独立して主にBtoCサービスに取り組んでいる平野と、グロービスで法人マーケティング、BtoBビジネスを統括している花崎です。

マーケティング教科書の決定版

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――今回の改訂4版で、特にこの辺を読んでほしいと部分はどこでしょうか?

花崎:全体的にデジタル系の話が入りました。いわゆるSTP-4Pにデジタルがどう関わってきているか、ここまでしっかりさまざまなキーワードを盛り込んだ教科書はなかなかないと思います。「私はマーケティングの実務家だ」と自負する方にとっても昨今のマーケティングを考える際の思考の整理になるでしょう。特にコミュニケーション、プロモーションの部分はその比率が大です。また、現代のマーケティングの基本である「顧客経験価値とカスタマージャーニー」の章を新たに設けたのも大きなポイントです。

平野:事例が身近でイメージが湧きやすいと思います。マーケティングがこんなところで使えるということを感じていただけるのではないでしょうか。伝統的なマーケティングのベースとなる部分に加え、最近の考え方もふんだんに盛り込んでいます。自分が書いたパートで言うと、第2章の市場機会の発見のところの布団用掃除機の「レイコップ」や、4章のセグメンテーション、ターゲティングのところのアウトドア製品の「スノーピーク」、第7章チャネル戦略の「資生堂」のケースなどは示唆が大きいですね。

花崎:自分が担当したところでは、第8章コミュニケーション戦略の「Coke ON」のケースなどは、いわゆるトリプルメディアのエッセンスがすべて入っており、味わって読んでいただきたいです。コカ・コーラほどの大きな企業が、アプリを使って顧客の購買行動を一気に変えてしまうというのは非常にダイナミックですね。CMなどもそれに合わせて変えてしまいましたし。

デジタル時代には共感がないと顧客も周りもついてこない

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――実際にマーケティングを企画・実行している中で苦労している点や工夫している点について教えてください。

平野:個人でビジネスを立ち上げる上で苦労するのは、やはり市場機会を見出すことですね。新しいことをやろうとすると、ファクトをポジティブにもネガティブにも捉えることができる。お客様も含め、周りを巻き込もうとしたときに、自分がポジティブにとらえていても、それが伝わらないことがあるのが難しいです。自分なりに確信を持つこと、成功事例などを積み上げて共感を得ていくことが非常に大切だと思います。

――具体的な例はありますか?

平野:今新しく子ども向けのサービスを立ち上げようとしています。このサービスはモノを作ることを通じて子どもにクリエイティビティや人の気もちを考えたり伝えたりする力を育もうというものなのですが、すぐに刺さる人もいれば、「それって意味あるの?学校の授業に活かせるの?」という人もいる。本当の価値は子どもが自分の内面と素直に向き合って考えることなどなのですが、その価値は伝わりにくいんですよね。

――工夫している点は?

平野:自分にとって大切なファクトを押さえることですね。そのためにはお客様の心から出てくる声を聞くことだと思います。もう1つは大きなマクロの流れを捉えることです。AIを始めとしたテクノロジーの進化により、社会がどう変化していくのかという大きな流れの中で、「こういう教育もやらなければならないよね」ということを伝えていくように努めています。今回の本にも、市場機会の捉え方のエッセンスは盛り込まれています。

花崎:マーケティングの中にデジタルツール――マーケティングオートメーションやアクセス解析など――が入ったことで、やれることが一気に増えました。お客様がウェブ上でどのような行動をとったかなどもすぐにわかります。「こういう行動をとるお客様にはこのような対応をしよう」という企画などもすぐできます。

ただ、BtoBの場合、そこにはやはり深い顧客理解が必要です。「このホームページを見たときにどんな感情だったのかな」などを想定できる力が非常に重要になります。同じ広告が何度も出過ぎるとうるさいだろうなとか、ウェブを見てすぐに電話やメールが来たらむしろ嫌かな、といった感覚を持てることが非常に大事ですね。人間心理といった現場感を持ちながら適切にデジタルツールを使って試行錯誤出来る会社が強いと思います。

――工夫している点はありますか?

花崎:グロービスは「創造と変革」を中心の軸にしていることもあり、往々にして世の中に壮大なメッセージを投げかけるというスタンスになりがちです。一方で、お客様は自分に響く言葉でないとクリックなどのアクションをしてくれません。その「翻訳」には知恵が必要です。そうしてうまく言葉を選びながら共感を醸成することが必要です。

また、私がやっているのはBtoBマーケティングなので、お客様の中の購買意思決定者の方、受講生の方、そしてグロービス社内の営業担当者といった多くの関係者がほど良く理解できる言葉を選ぶということにも気をつけています。こちらが言いたいことだけで言葉を選んだ時には驚くほど伝わらず、それはデータにも顕著に現れます。

――BtoBマーケティングでも、デバイスの多様化は影響が出てきていますね。

花崎:デバイスの多様化に合わせて、最適な魅せ方のロジックを組むのも大事ですね。現在は仮説を立てながら、おそらくこの施策の方が良い効果が出るだろうということを検証しながら進めています。いわゆるA/Bテストなども当然やっています。難しいのは、グロービスの法人部門にはいま200人以上の人がいて、皆が思いを持ちながらいろいろなサービスをご提供しようとしています。そして、それらのサービスは多種多様です。そうすると、放っておくとすべてをお客さまに紹介したくなる。しかし、求められていないサービスをご紹介することはお客様にとってはノイズになります。そこで、「あえて紹介しないもの」を決めたりしています。ここはかなりヒューマンな意思決定ですね。

――顧客体験についてはどうですか?

部門横断でお客様に最高の体験をお届けするのが本当に難しいところです。そのためには、理想的な使われ方、理想的な伝え方を考える必要があるのですが、それが簡単ではありません。今は「このタイミングでこのサービスを利用してもらい、次にはこのサービスを・・・」といったジャーニーをいくつか仮説的に作っています。しかし、それはもちろん企業の特性やグロービスとの関係性などにより異なります。一方で、ある程度は標準化も必要です。そこのバランスが難しいですね。

あと、これはマルケトの方が言われていたのですが、2011年には世界中でマーケティングテクノロジーに関わる会社は約150社だったそうです。それが2018年には約7000社になった。それだけ多数の専業プレーヤーが出てきたわけです。ある意味、混乱の時代だからこそ、自分たちが何をしたいのかという理想像を持っておくことが非常に大切だと思います。それがないと、ツールを売り込まれるだけで大混乱してしまう。

――平野さんはデジタルについてはいかがですか?

平野:私のところは小さなビジネスなのでそこまで大々的にITを導入しているわけではないのですが、やはりBtoCのマーケティングはSNSの活用は必須です。顧客との接点の作り方が特に大切ですね。単に数が多ければいいというわけではなく、お客様の熱をしっかり高めることが必要です。ただ、それがなかなか難しいです。最後にはアクションをとっていただけるようにしたいのですが、そのためには常に細かく働き掛け続けないといけない。常に状況把握とそれに合わせた働きかけが必須です。

心の時代に良きコミュニティを構築する

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――今感じている変化、あるいはここ3、4年で起こるであろう変化としてはどのようなものがあると思いますか?

平野:より「心」にフォーカスする必要があると思います。糸井重里さんなんかも言われているとおりです。感情がそのまま伝播していく。そこにフォーカスし続けないとビジネスが続かない。インサイトやカスタマージャーニーの話とも重なるところですね。あと、お客様だけではなく、自分の心にもフォーカスしないといけない。会社の垣根が下がる中で、皆が自己実現できている方がパフォーマンスは出ます。

花崎:BtoCであろうがBtoBであろうが、お客様が自分に最適なものを求めるようになっています。率直に言えば、お客様が「わがまま」になっているのですが、だからこそそこに付加価値をつけられる余地があると考えています。我々の人材育成の分野で言えば、「パーソナライズ化」や「アダプティブラーニング」はその代表例です。平野さんもご指摘の通り、お客様は最終的にはヒューマンタッチを求めるようになりますから、ツールとしてのデジタルと、提供価値としてのヒューマンタッチをどうつなげるかが課題ですね。想像力や観察眼、解釈する力などが重要になるでしょう。

また、顧客の体験価値の最大化を考えると、社内全体あるいはパートナーを適切に巻き込む必要があります。その際に、自社の世界観をしっかり共有することが大切ですね。その際、共通言語も必要になるわけですが、そのためにもこの本を皆が読んでいただけると嬉しいですね。この本をきっかけにグロービスのクラスを受講いただけるとさらに嬉しい(笑)

平野:私も、力を入れているのはパートナーを見つけることも含めたコミュニティ作りです。みんなでいいものを作っていくんだという雰囲気を作ることが非常に大事です。あと、お客様のみならず、社会に対して信頼を構築していくような活動が現代のビジネスには欠かせません。その点、ほぼ日などは注目しています。あと、グロービスで講師をされている鹿毛康司さんのコミュニティ作りなども参考になりますね。ツイッターでの発信の仕方とかYouTubeの使い方などが参考になります。

マクロな視点と高い志を持ちつつ、お客様のことを徹底的に考え抜け

――これからマーケティングを勉強したり実践しようとしている方に何を伝えたいですか?

平野:1つの細かい仕事にとらわれるのではなく、全体を見ることですね。まさに今回の本などでも学べる部分かと思います。それができると、実務でどう動くべきかがより理解できます。闇雲に何かをするのではなく、考えながらPDCAを回すこともできるようになります。「やってみなはれ」の精神も大切だけど、やはりPDCAで随時修正することが大事ですね。難しいのは、中長期の戦略と短期、つまり日々の工夫の両方を見ることです。これは教科書にはなかなか書いてない。KPIを設定してPDCAを回すなどはまさに教科書通りにやると非常に有効なのですが、そこの具体的な工夫などは自分で考えるしかないです。

花崎:3つあります。まず、あらゆることに好奇心を持つことです。自分自身でユーザー体験、顧客体験を幅広く持つことが必要です。そしてそこで様々な考えを巡らせることでマーケティングのセンスは上がります。2つ目は、打算抜きにお客様のために考えることです。先日、ある企業にヒアリングに行ったのですが、本当にお客様のことを考え抜いている。だからこそデジタルの活用なども巧みに行えるという側面があります。また、お客様のことを考えているから、いろいろと役に立つことがアンテナに引っかかるようにもなります。3つ目は、巻き込む人が増えますから、リーダーシップの力が必要になります。グロービスのクラスの「パワーと影響力」なども含め、リーダーシップ関連の勉強もされることをお勧めします。

――最後に一言お願いします。

平野:マーケティングはマーケターだけがやるものではなく、事業作りそのものです。皆がお客さんを喜ばせることに向かって動いていけば、皆が幸せになれます。その視点を忘れないことですね。「世のため人のために」と言ってそれを否定する人はいませんが、もう少し絞り込んで「誰が幸せになると自分も幸せになれるのか」を考え抜くといいと思います。

企業の中の人は、企業の軸とのすり合わせは必要ですが、それでも自分が何をやりたいのかをしっかり考えるといいと思います。あと、競合を見ることはもちろん大事ですが、競合に引っ張られ過ぎないことも重要ですね。競合ばかりを見ていると、お客さんを見ることが疎かになります。そうなると提供する価値もぶれてしまう。

花崎:かつては仕事と遊びは切り分けて、という世界観があったと思います。いまは自分がやりたいと思ったことを実現できるツールが揃っています。つまり、ビジネスの中でも大いに楽しめるようになった。高い志をもって、実現したいことを楽しみながら考えてほしいですね。それで言うとエンターテインメントビジネスなんて参考になりますね。音楽やゲームなどが典型です。あの手この手で人を楽しませていますから。やっている人も楽しんでいる。グロービス代表の堀も学びは最高のエンターテインメントと言っています。それは自分のビジネスを考える上でも参考になりますね。

 

早稲田大学商学部卒業。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院EDP(Executive Development Program)修了。大学卒業後、第一生命保険相互会社(現 第一生命保険株式会社)に入社。法人ビジネスの戦略策定、営業企画、営業組織マネジメントなどを担当。グロービスに転じ、グロービス・コーポレート・エデュケーション(GCE)部門において、企業の組織開発・人材育成支援に従事。
その後、ディレクターとして企業向けサービス開発チームのリーダー、セールス&マーケティングチームのリーダーを務め、現在はGCE部門マネジング・ディレクターを務める。講師としては、企業研修・エグゼクティブスクール・グロービス経営大学院において、マーケティング・経営戦略・論理思考・リーダーシップなど幅広い領域ならびにアクションラーニングの登壇多数。また、グロービスのマーケティング研究グループのリーダーとして、同領域のコンテンツ開発・講師育成を統括している。

慶応義塾大学経済学部卒業。グロービス経営大学院修了(MBA)。 住友商事株式会社入社、財務経理部門にて発電プラント・電子材料・自動車・建設機械等、幅広いビジネスに従事。その後、カナダの事業会社に出向し、経営管理業務全般に携わる。現在は、グロービスの研究開発部門にてマーケティング領域のコンテンツ開発等に従事。 講師としては、戦略・マーケティング領域、アカウンティング領域、クリティカル・シンキング等の思考系科目等を担当している。

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