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こんな会社には注意せよ。IRという“ロードショウ”を楽しむ経営者に

投稿日:2009/02/25更新日:2019/04/09

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IR活動に力を入れる企業が増えているが、株価または会社にとってどれくらいの“効果”があるのだろうか? ひょっとして経営者は、時間とお金をムダに使っているのかもしれない。(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2009年2月19日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

筆者は、率直に言って、企業がIR(インベスターズリレーション)活動に熱心になることに対して懐疑的だ。特に、IRのコンサルタントや証券会社が経営者にけしかけるような、投資家と直接接するようなIR活動について疑問に思っている。

あえて名前は挙げないが、十数年前、英国の運用会社に出張していたときに、最近大規模なリストラや不採算事業からの撤退を発表した電機メーカーの社長さんのIRミーティングを拝見したことがある。社長と財務担当役員とその部下という3人の陣容で、大手とはいえ英国の一運用会社の通称「ジャパン・デスク」(日本株に投資している数人の部隊を社内ではこう読んでいた)のためだけに、会社について説明するミーティングを開いてくれたのだ。筆者はその運用会社の日本法人に入社して、研修と顔つなぎを目的に出張でロンドンに滞在していたところだった。

そのオーディオに強くて独自の製品も持っている電機メーカーの社長は、プレゼンテーションも慣れていたし、ファンドマネジャーの質問にも誠実に答えた。ミーティングは、フレンドリーで感じのいいものだった。ジャパン・デスクとしては、大いに感謝した。

しかし、筆者がどうにも納得できなかったのは、この社長さんの時間の使い方だった。

乱暴な言い方を許してもらうと「おい、こんなことしている暇があるなら、もっと真剣に経営しろよ」と一声掛けたい気分になったのだ(実際には、言わなかったが)。

情報提供は平等に行う必要がある

大手の運用会社は運用資産額から見て、1%を超える大株主になる可能性があるし、その時点で、電機メーカーの株式を既にそこそこ持っていたかもしれない(その後の業績が悪く投資としては失敗だったろうが)。しかし社長にとって、1年の中の貴重な1日を財務担当役員も含めて潰すほどの用事だろうか。

海外の大手投資家に対して会社の経営状態や今後の経営計画を説明するためのIR活動を俗に「ロードショウ」と称するが、あれは無駄ではないのか。経営者は、株主への言い訳や投資家への株式の売り込みではなく、事業で利益を上げることに専念すべきだ。プレゼンテーションで株価を上げようとしているのだとすると、何とも卑しい。

しかしIRコンサルタント会社は、外国人投資家の重要性を説くし、経営者の側も2度目、3度目のロードショウともなると、裸の王様の側でも慣れが出てきて、海外で羽を伸ばす理由としてこれを使うようになったりする(何をするかは、読者のご想像にお任せする)。

また、IRのコンサルティングを行っている会社の立ち位置にも“問題”を感ずることがある。彼らは、実質的な株主が誰であるかということの調査をサービスとすることがしばしばあるし、大株主向けの情報提供をいかにうまくやるかについてクライアント企業の経営者に知恵を授ける。しかし建前をいうと、上場企業は現在の株主にだけではなく、今後株主になるかもしれない投資家一般に対して平等な情報提供を行わなければならないのではなかろうか。

経営者はIRの「必要十分」を認識せよ

「公開」あるいは「上場」企業は、今の株主と将来の株主を平等に取り扱わなければならない。もし誤った情報で株価を一時的に上げるなら、今の株主には感謝されるかもしれないが、将来の株主を欺き損をさせることになる。

経営者は自己の保身のために、現在の大株主に気に入られたいかもしれない。しかし、1人1人の持ち株は少ないかもしれないが、大衆株主は、経営者が大株主の機嫌取りに時間を使うことを快く思わないだろう。

もちろん会社の情報を早く、かつ正確に株主・投資家に知らせることは必要だし、重要だ。情報の取り扱いに気を遣うのは当然だ。

実は近年、「適時開示」の原則が強化されたおかげで、重要な情報に関しては、平等に発表しなければならなくなったので、アナリストなどによる一般投資家への情報上のアドバンテージが大いに損なわれた。かつては自分の親しい、あるいは影響下にある経営者に数字の感触を問うことで、アナリストが利益予想の修正などを実質的に早く知ることができたが、今はそれをやると経営者の側がルール違反になる。

もちろん零細株主も含めて、株主の疑問に対して経営者は真摯(しんし)に答える必要があるし、投資家に対する早くて正直な情報伝達は重要だ。しかし、いくら大企業だからといって、IRのために多くの人員を割き、経営者の時間を随分使うというような状態はどこかおかしい。経営者が油断すると、IRのコンサルタントや自社のIR部署のスタッフに仕事を作ってやるために経営者の時間とエネルギーが使われることになってしまう。

必要以上のIRをしてはいけない

いずれにせよ、時間や手間も含めて低コストだが早くて、かつ正確な「必要十分なIR」を経営者は自分の判断において確立する必要がある。

一方で投資家は、表面的なIRのうまさを疑って掛かるべきだろう。申し訳ないことだが、筆者はIRに特別に熱心な会社の業績や株価については、普通の会社よりも深く疑うことにしている。はっきり言うと、プレゼン下手の会社の方が、「上がり目」が大きいことが多い。もうひとこと、言っておこう。IRミーティングで投資家とのやりとりが「経営の参考になる」などとのんきなことを言う経営者は、日頃、経営のことを十分に考えていない人物だ。

近年、日本の上場企業経営者の報酬水準がジワリと上がっているし、自社株の割り当てやストックオプションなどのインセンティブを持っている経営者が増えてきた。彼らは、一時的ではあっても株価を上げたいかもしれないが、経営者が株式のセールスマンになるようでは困る。

IRは必要だが、やり過ぎはむしろ良くない。

▼「Business Media 誠」とは

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