『トレバー・ノア』――僕たちはどこにでも行けるし、何にでもなれる。

20世紀における最悪の人種差別政策「アパルトヘイト」下、黒人の母と白人の父から生まれたトレバー・ノア。「生まれたことが犯罪」という宿命を背負った彼は今、グラミー賞のプレゼンターを務めるなど、「分断」が続くアメリカで最も注目を集めるコメディアンに成長した。彼はなぜ、変えられない宿命に悲観することなく、自分の可能性を信じることができたのか。そのヒントがギッシリと詰まった本『トレバー・ノア』を紹介したい。

人種が違う者同士の結婚が禁止されていた南アフリカのアパルトヘイト時代、1984年に黒人の母と白人の父から生まれたのがトレバー・ノアだった。通常、子供は両親の愛の証と言われるが、彼は両親の犯罪の証。1994年にアパルトヘイトが廃止されるまで、街中すら一緒に歩けないなど、人として普通に生きる様々な権利が奪われ続けた。そのような絶望的な暗闇の中で、トレバーに光を照らしたのは他でもない母・パトリシアだったのである。

当時、南アフリカの黒人家庭の大半は、過去からの様々な問題や貧困を「宿命」として背負い、どうにか毎日を生きるだけに日々を費やしていた。両親から捨てられていたパトリシアは、朝4時半起きで畑を耕すことを強いられ、食べ物も満足に無ければ肌着一着も無い、一般的な南アフリカの人々と変わらない極貧生活を少女時代に送っていた。

ただ、彼女はその宿命を良しとはしなかった。当時としては希少な英語を身に付け、秘書養成講座でタイピングを学び、畑からオフィスへと職場を移した。公衆トイレで寝泊りを続け、やがて家を手に入れた。宿命の抜け穴を探し、自らの行動で未来を切り開いていくのである。

『自分の過去に学べば、その過去のおかげで成長できる。だけど、過去を嘆きはしない。人生には苦しいことがいっぱいあるけど、その苦しみで自分を研ぎ澄ませばいい。いつまでもこだわったり、恨んだりしたらダメなの』

人生で受けた痛みを忘れると同時に、同じことは絶対に繰り返すまいとするパトリシアは、自らの半生・生き方を幼少のトレバーに語り、自ら実践してみせ、共に様々な危機を乗り越えていった。トレバーも彼女の背中を追った。詳細は是非本書にて確認していただきたいが、間違いなく「人生で最悪」と言える出来事でさえも、2人はそれまでと変わらずに痛みを受け止めて前へ進み出していく。

生きていく中、人生で起ることは自らコントロール出来ないことが多い。差別や偏見、権力や裏切りなど、自分の力では如何ともしがたいことが立ち塞がった時、あなたはどうするだろうか。自らの状況を嘆き、立ち尽くしてしまうだろうか。

2人は違った。困難が起こっても、すぐに諦めずに見方を変えて、様々な方法を試してみる。変えられないことに拘らず、視点を変えて抜け穴を探し、変えられることにフォーカスし行動する。結局のところ、起こったことが良いか悪いかというのは、それをどう見るかによるのだということを2人は教えてくれる。物の見方次第で、目の前の世界はいかようにも変わるのだ。

『どこにでも行けるし、なんでもできる、そんなふうに育ててもらった。この世界は好きなように生きられるところだということ。自分のために声をあげるべきだということ』

トレバーも生まれながらの宿命に屈せず、南アフリカの小さな町からアメリカ、そして世界へ飛び出した。自分の本当の可能性は、自分では想像もつかない世界のはるか向こうにあるかもしれない。平成最後の年末年始を迎える。是非、トレバー母子の冒険記から視点を変え、自分の新たな可能性に思いを馳せてほしい。

『トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ?』
トレバー・ノア (著)、英治出版
1944円

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