グロービス経営大学院の教員が、今こそ読みたい自伝・評伝のおすすめ本を5冊ご紹介します。
巨大組織の礎となる人づくりをいかに進めたのか?
イオンを創った女 ― 評伝 小嶋千鶴子
推薦:嶋田毅
本書は、岡田屋呉服店をジャスコ、そしてイオングループという流通の巨人に成長させた小嶋千鶴子さんの(岡田卓也の実姉。現在102歳)の評伝です。彼女は23歳から30歳まで社長を務め、弟に社長を譲ってからは、主に人材・組織開発の領域で力を発揮し、イオンの組織文化を形成していきました。本書は、必ずしも朝ドラのようなドラマチックな物語ではなく、むしろ現代の人材・組織開発の観点から彼女の足跡を解説しています。一読して感心するのは、現代にも通じるその先見性と、人への投資こそが組織を強くするという信念への強いこだわり、そして実行力です。当たり前のことを当たり前に、かつ真面目にやり続けることの重要性を再確認できる1冊です。
成長を阻害するボトルネックは「自分の頭」かもしれない
ローマ法王に米を食べさせた男
推薦:荒木博行
いわゆる「スーパー公務員」と呼ばれた高野誠鮮さんの自伝書です。ドラマになったりテレビでも取り上げられたようなので、知っている人も多いのかも知れませんね。ノンフィクションなのですが、まるで小説のような痛快さ。どれだけ制約があっても、「心は自由」「知恵には制約なし」ということなんですよね。「うちの会社は頭が固くてさ〜」とか「やりたいことあるのに予算がなくてね〜」とかその手のイケてない言葉が口グセになっているような人が読むと、「最大のボトルネックは自分の頭だ」ということに気づかされると思います。「2019年こそ飛躍の年にしたい」と思っている人は、この年末年始にこの本を読んでイメージトレーニングをしてみよう!
名経営者が持ち続けていた秘めた想いとは?
小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの
推薦:竹内秀太郎
ヤマト運輸の小倉昌男といえば、宅急便の生みの親として有名です。常識を覆すビジネスモデルを発明した希代の戦略家というイメージがありますが、彼の内に秘められた想いがあったことは知られていません。会長職退任後、私財を投げ打って障害者支援の福祉財団を設立した本当の理由は何だったのか。ノンフィクション大賞の受賞作である本書では、丹念な取材によって、彼が家族に対して深い苦悩を抱えていたことが明らかにされます。経営者としての顔からは想像もできない小倉昌男の生きざまに心打たれる1冊です。
若き社会起業家の生き様に勇気をもらおう
裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記
推薦:池田新
裸でも生きる――何事にもまっすぐに真剣に取り組む、純粋な著者の口からごく自然にでた「自分の生き様」を表した言葉なのでしょう。本書は、途上国発のバッグ・アクセサリーブランド「マザーハウス」を創業した山口絵里子さんの自伝エッセイです。最初に読んだのはもう10年ぐらい前でしょうか。でも、その内容は本を手に取って振り返らなくてもVividに私の記憶に残っています。それぐらい強烈な、喜怒哀楽に満ちあふれた波乱万丈な人生を歩んでいる人です。何せ環境変化の振幅の幅が無茶苦茶広い。そこに飛び込んでしまう勇気、数々の困難にもめげずに克服してしまう根性。心が自然と熱くなります。世の中の多くの人々に、この人の存在を知らしめたい――そう思わせる1冊です。
平成の終わりに、近代天皇制について考える
ミカドの肖像
推薦:金子浩明
この本は、社会制度としての近代天皇制を真正面から論じた本ではない。ましてや、天皇制の是非を問うようなメッセージはひとつもない。著者の猪瀬直樹が示すのは二重の「中心と周縁」という構図だ。ひとつは近代天皇制における「中心(ミカド)」とその中心を生気づけてきた「周縁(大衆)」、もうひとつは世界の「中心(西欧)」と「周縁(日本)」である。本のタイトルである「ミカドの肖像」とは明治天皇の「御真影」を指し、御真影は複製技術革命(メディア革命)によって全国に広められた。西欧風の軍服に身をまとった明治天皇の肖像画を描いたのはイタリア人のキヨッソーネ(西欧と日本)。御真影にミカドの権威を認めたのは日本の大衆(ミカドと大衆)。こうして、天皇のもとにすべてが平等という「一君万民」の空間秩序が形成されていく。猪瀬は「ミカドと大衆」という縦糸に「日本と世界」という横糸を絡ませ、近代天皇制の姿を緻密に描き出す。平成の終わりに読みたい1冊。