ここ2~3年、「ディスラプト(Disrupt)」という単語をよく耳にするようになった。直訳すると本書の題名どおり「破壊」という意味合いで、旧来のビジネスプレーヤーが新参者に駆逐されることを指す。
例えばデジタルカメラの急速な普及により、世界最大のフィルムメーカーだったイーストマン・コダックは破綻した。米国最大のレンタルビデオチェーンで9000店舗以上を展開していたブロックバスターも、NetflixやHuluなどストリーミングによる映画配信に押され、ピークからたった数年で倒産に追い込まれてしまった。急激なテクノロジーの進化により、今もあらゆる業界の既存プレーヤーが、”誰かに””何らかの方法で”ディスラプトされる脅威にさらされている。
私は人材育成コンサルタントとして企業研修の設計を行っているが、研修のディスカッションイシューを「自社の中長期的な課題はなにか?」から一歩進めて、「自社が20XX年に生き残るためには?」にするケースが増えてきている。つまり、自社がある瞬間にディスラプトされる側に回るということを、どの企業もリアリティを持って考えているということだ。
たとえ過去最高益を叩き出している企業や100年以上続く老舗企業であってもこの危機感は変わらない。もしも今のビジネスモデルが突如通用しなくなるとしたら、それは何によるものなのか?普段儲かっているうちはあまり考えないからこそ、研修の場でこれを(特に次世代を担う社員たちに)考えてもらいたい。いままだその気配は感じられなくとも、ディスラプトされることをイメージし備えは持っていてもらいたい――そうした企業が増えているのだ。
先日、そんな研修の一環で、本書の著者の葉村氏に講演者としてご登壇いただいた。Google、ソフトバンクのiPhone事業、Twitter、LINEと「ディスラプトする側」のさまざまな企業に在籍した経験をお持ちだが、ご本人曰く、「それまではレガシーな企業側にいた」とのこと。両方をよく知るからこそ、既存企業の中にいる人たちの考えの癖を見抜きながら、「ディスラプトとはそもそも何か?」「我々は何を考えるべきか?」を非常にわかりやすく語っていただけた。私が最も印象に残った言葉は「『自分が生き残るためには何をすべきなのか?』を目的化する企業は生き残れない」という逆説的にも聞こえる話だ。なぜか?それは本書の中にも書いてあるので、ぜひ手にとって読んでいただきたい。
葉村氏も強調しているが、本書はハウツー本ではない。「どうやったらディスラプトできるか/されないか」という答えが書いてあるわけではない。「ディスラプトとはなにか?それがなぜ起こるのか?」について、豊富な事例と、著者自身の体験と、それらを一段抽象化した3つの原則「①人間中心に考える、②存在価値を見定める、③時空を制する」という考え方が書かれている。
そもそもディスラプトは21世紀になって急に起きた現象ではない。本書はホモ・サピエンスがネアンデルタール人をディスラプトした(!)あたりまでさかのぼって歴史を紐解いている。そして、現象の裏にある原理原則を理解することが、自社が(あるいは自身が)ディスラプトから身を護る唯一の方法であると述べている。ぜひ、安易に答えを求めるのではなく、本書を読んでまずは「ディスラプトとはなにか」を学んでみていただきたい。
『破壊 新旧激突時代を生き抜く生存戦略』
葉村 真樹 著、ダイヤモンド社
1944円