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“転職の親”を裏切ってはいけない。義理の世界で生きているのだから

投稿日:2009/02/18更新日:2019/04/09

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「会社を辞める=裏切り者」なのだろうか? 転職が当たり前となった現在では、裏切り者とは呼ばれなくなったが、「自分を雇ってくれた“転職の親”を裏切ってはいけない」という山崎氏。その意味とは……?(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2009年2月12日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

唐突で恐縮だが、筆者は、かつて東映が多数制作したヤクザ映画が好きだった。高倉健、鶴田浩二らの大スターの若いころには華があったし、菅原文太主演の『仁義なき戦い』のリアリティも良かった。20代の一時期、会社が面白くなかった時期があったのだが、このころはしばしば、会社を定時に出てヤクザ映画の3本立てを見ていた。

かつてのヤクザ映画の基本的なストーリーは、「義理」の世界に縛られる主人公が、理不尽を耐えに耐えて、ついに怒りを爆発させて、観客をスッキリさせるというものだった。筆者が見たヤクザ映画の中にしばしば出てきた印象的なセリフは「親には逆らえない」(親分は親のような存在だから、逆らえない)というものだった。

もっとも今の若い人の場合は「親に逆らってはいけない」という倫理自体が実感できないかもしれない。子どもの数が減って、1人の子どもに掛ける手間と費用(特に教育費)が増えているのに、皮肉なことだ。

また所属している組を破門されると、ほかの組にも雇ってもらうことができないし、恨みを買っていれば、身に危険が迫るという設定も多かった。

転職で辞めて行く社員への風当たり

さて、かつての(ざっと20年前をイメージしてほしい)企業社会では、昔のヤクザ映画と似た原理が働いていた。まず、上司に逆らうことはできないという常識が、今よりもずっと強力だった。それでも逆らう社員がいるのは、今と同じだが、上司に反対意見を述べる際の覚悟は、今以上だったと思う。

このことは勤めている会社を辞めることが、今よりも大変なことだったという理由によって強化されていた。また会社を辞めた人への風当たりは、かつてのヤクザ映画の世界でいう組を破門されたヤクザを彷彿(ほうふつ)させるものがあった。

当時は、転職するので会社を辞めるという社員を、「裏切り者」呼ばわりしたり、もとの会社には「絶対に戻さない」と言って送り出していた。ひどい場合には「同じ業界では、働けなくしてやる」といった、脅しの捨て台詞を浴びせられることもあった。

しかし1990年代の半ばくらいから、転職が一般化したため、転職で辞めて行く社員への風当たりは、ずいぶん減った。また多くの会社は、退職者が世間に発するメッセージが自社の評判に大きく影響することに気が付いた。会社によっては、かつて辞めた社員を再び採用する“出戻り”を許すようにさえなった。会社側はその人の能力や人柄を把握しており、採用される側でも会社の様子をよく分かっているのだから、出戻り社員の採用は合理的なオプションだ。

外資系企業の対人関係は、日系企業よりも濃密

それでは、現在の転職者が「義理」に近い感情あるいは立場を持っていないのかというと、それは事実と異なる。

転職者にとって、会社生活の「親」に相当するのは、自分の転職を実質的に決めてくれた意思決定者だ。これは、多くの場合は直属の上司になる人だろうが、そうでない場合もある。いずれにせよ転職者に目を掛けてくれて、採用しようと決定してくれた人が、いわば「転職の親」。この人に敵対してはいけないし、できれば恩を返さなければならない、と考えるのが、転職の暗黙の常識だ。

世間(社内)の側でも「あの人、誰が採ったの」という問題意識とともに、転職してきた社員を眺める。

これは外資系の会社でも同様だし、こうしたインフォーマルな親分子分の関係は、日系の会社に転職する場合よりも重要かもしれない。それ自体はあまりいいことではないが、外資系企業では、俗に「ポリティックス」と呼ぶ、社内の駆け引きが激しい場合が多い。勢力争いに敗れると雇用自体が危なくなることもあって、誰が敵なのか、味方なのか、という区別に社内が敏感な場合がしばしばある。

全般にドライだと思われることの多い外資系企業だが、「転職の親」を裏切るような人物は、信用できない人物として警戒される。社内ポリティックスが重要である以上、機を見て、主流派に付きたいと思う人がいてもおかしくないが、あまり露骨にやると、外資でも軽蔑される。外資系企業の対人関係は、しばしば日系の企業よりも濃密だ。

転職者も義理と人情の世界で生きている

人間には自分のためにと思うと遠慮が出るが、誰か大切な他人のためだと思うと心おきなく力を発揮できるような心理がある。転職の際に「転職の親」から受けた恩に十分報いようと頑張る心理に転用できるなら、新しい職場の誰かに「義理」や「仁義」を感じるのも、悪いことではない。

転職者は1度会社を辞めているわけだし、新しい職場では新参者なので、自分が所属する会社(ヤクザ映画でいうと「組」)に対してプライドを持つわけではない。転職者がプライドを持つのは、自分の「仕事」であり、その「腕」だろう。ある意味では、職人さんのようなプライドの持ち方だ。

義理に縛られ、職人気質というと、ずいぶん古風に聞こえるかもしれないが、転職者も人の子なので、義理と人情の世界の中で生きている。

▼「Business Media 誠」とは

インターネット専業のメディア企業・アイティメディアが運営する、Webで読む、新しいスタイルのビジネス誌。仕事への高い意欲を持つビジネスパーソンを対象に、「ニュースを考える、ビジネスモデルを知る」をコンセプトとして掲げ、Felica電子マネー、環境問題、自動車、携帯電話ビジネスなどの業界・企業動向や新サービス、フィナンシャルリテラシーの向上に役立つ情報を発信している。

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